第398話 これは最後の決戦になるに違いない

『きてしもうたようじゃな』


 エストだ。


「姿を見せろ。偽神野郎」


『〈尊き者〉よ。わしは神じゃ。貴様を抹殺する』


「なに……?」


 マーテリアのクリスタルが輝く。

 と思ったのも束の間。俺の目の前に、動く物体が生成された。

 純白の人型。まるで全身タイツを着た人間のような、つるっつるの物体だった。


「なるほどな。なんとなくわかるぜ」


 俺は直観する。

 エストが有する自己保存のはたらき。その力が具現化した存在ってとこだろう。


『滅びよ』


 エストの両腕が勢いよく伸びる。先端が鋭く尖った二本の腕は、俺とオルタンシアを正確に狙っていた。


「おっと」


 超光速で迫った二つの攻撃を、俺は難なく弾く。

 当然のことだが、オルタンシアは反応さえ出来ていなかった。


「え? あれ? いま……」


 何が起こったかも分かっていないようだ。


「いきなりだな」


『〈尊き者〉は排除する。真に尊きは一つ。真実は二つといらぬ』


「それっぽいだけで中身のないことを言ってんじゃねぇ。ったく」


 神ってやつはほんとにそういうの好きだな。


「オルたそ。俺から離れるなよ」


「は、はい」


「ここでエストを倒す」


 予想より早い展開だけど、どうせやらなきゃいけないんだ。

 とか考えているうちに、エストが眼前に迫っていた。


「はやっ――」


 俺の顔面に、エストの膝が叩き込まれる。

 凄まじい衝撃に首の骨が折れるが、間髪いれずファースト・エイドをかけたことで事なきを得た。

 そして俺はエストの足首を掴み、振りかぶって床に叩きつける。まるで雷鳴のような轟が空間に響き渡った。

 平べったく潰れたエストは、すぐに形を取り戻し、反撃の一手を打ってくる。

 周囲に浮かべた無数の光が、弾丸となって俺とオルタンシアに降り注いだ。エネルギーの強さから推測するに、一発一発がエンペラードラゴンを必殺する威力を持っている。

 俺はなんとなくバリアを張ることでそれら全てを防ぐことに成功。だが、床や壁が無残に砕け、広間はボロボロになってしまった。

 一瞬の攻防。この間およそ一秒。


「え? え? なに? 部屋が……」


 オルタンシアからすれば、光って瞬きした間に辺りが崩壊した。としか捉えられないだろう。


「おっけ。今の一瞬で大体の強さはわかった。所詮作り物の神だな、エストは。もう勝ったわ」


「そうなん、ですか?」


「ああ。まぁ見てろ」


 俺は一歩を踏み出す。

 それを警戒したのか、エストは跳躍し距離を取った。

 ビビりな奴め。


「おいエスト。これを見ろ」


 よく見えるように、握り締めた拳を突き出す。


「俺のこの拳は、全てを打ち砕く。神だろうが悪魔だろうが関係ねぇ。スキルとか魔力とかはもちろんのこと、目に見えない概念すらも跡形もなく破壊する」


 俺の言葉を、エストはじっと聞き入っている。ように見える。こいつに耳があるかはわからないからな。

 こうやって口に出しているのは、イメージを固めるためだ。

 明確にイメージできるかどうか。〈妙なる祈り〉の力をどれだけ引き出せるかは、すべてそこにかかっている。

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