第385話 追ってきたぁ
えっちらおっちら足を動かし、最上階に到達。大体高さ百数十メートルか。
「あ、種馬さま。あれ」
指を差すオルタンシア。
その方向を見てみると、人ごみの隙間から巨大な山が見て取れた。
「あれか」
巡礼の観光客達はみんな山に向いているから、すぐに分かった。
角ばった真っ白い山。
「あんな感じなのか」
俺のイメージでは、なんとなく富士山的なものを想像していた。
だが違う。
例えるならチョモランマ。いわゆるエベレスト。
神の山とはよく言ったもんだ。
古今東西。世界が変わっても、壮大な自然は神と関連付けられるのが常らしい。
現代っ子の俺だが、そういう考えはわからないでもない。自然への畏れ的な。
「見つけたぞ」
背後から聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには全身に包帯を巻いたサニーがいた。
「あんた……もう動けるのか」
「ああ。お前にやられたせいで、体中痛くて歩くのがやっとだけどな。医療魔法も軒並み効果がない」
そりゃそうだろう。しばらく動けなくするつもりでやったのに。ここまで上ってこられただけでも予想外だ。
「何か用か? また仇討ちとか言うんじゃねぇだろうな」
「いや、あの件は俺達の負けで話はついた。もうお前を狙うことはない」
「そいつはよかった。じゃあなんで俺を追ってきたんだ?」
サニーは腕を組み、ふむと息を吐く。
「ロートス。お前は、意志の力についてなにやら詳しそうだった。正味の話、俺にもこの力がなんなのか、詳しいことはわかっていないんだ」
「だから教えてほしいって?」
「ああ」
なるほどな。
正直、俺もサニーの力には興味がある。
アルバレス因子を持つ者のみが発現するという〈妙なる祈り〉が、サニーにどう影響を及ぼしているのか。
サニーは俺の隣までやってきて、神の山を見据える。
「なぁサニー。あんた、神から与えられたスキルと職業は、偽りのものだって言ってたよな。どうしてそう思うんだ?」
「簡単なことだ。人は自身の能力に縛られて生きるべきじゃない。道は最初からあるものじゃなく、自ら切り開くものだろう。通った後にできるのが、自分だけの道なんだ」
この世界の核心をついた物言いだ。
「なんでそう思うようになった?」
「そうだな……グランオーリスは冒険者の国だ。建国から短いが、多くの優秀な冒険者が凌ぎを削っていた。みな創意工夫を凝らし、生きる為、名誉のため、金の為、理由は様々だがそれぞれ競い合って己を磨いていた。だが、すべてはスキルの差を埋めることは至難だった」
「そうなのか? 体術や魔法を鍛えればそこそこいけるだろ?」
「ああそうだな。だがそこそこだ。例えばチェチェン老の『リュミエール・アッシュ』の前では、いくら剣術や魔法を磨いても敵わなかった」
「あー……」
たしかに神スキルを使われちゃ、焼け石に水だよな。
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