第371話 次で決着

「マジかよ」


 思わず笑ってしまう。

 まさかこんな先制攻撃をやってきやがるとは思っていなかった。

 けど、それがどうした。


「せいっ!」


 俺は老人に向かって前蹴りを放つ。

 肩から先を失ったせいでバランスが取りにくいが、うまく直撃してくれた。

 手応えは浅い。

 老人はふわりと吹き飛び、壁際にゆっくりと着地した。


「ほ。こりゃ驚いたわい。まさか反撃がくるとはの」


「驚いたのはこっちの方だぜ。じいさん。S級が新人相手に奇襲なんて、大人げないと思わねぇのか?」


「新人? 馬鹿言っちゃいかんぞい」


 老人はシャツの裾を引っ張って皴を伸ばす。


「両腕飛ばされて平気な顔しとる新人なんぞおらんわい」


「ごもっとも」


 俺は床を靴底で叩く。

 すると落ちていた両腕が浮き上がり、出血する肩の断面まで戻ってくる。


「ファーストエイド」


 十八番の魔法を唱えた途端、俺の切り落とされた腕は繋がり、元通りになる。

 すでに驚愕の渦中にあったホールに、更なる衝撃がもたらされた。


「うそだろ! 切断された腕を治したってのか」


「あんなすぐに治してしまうなんて……医療魔法のレベルが高すぎる……!」


「ファーストエイドって言ってたが、シューペルエイドの間違いじゃないのか?」


「だとしてもやべぇよ。シューペルエイドは伝説の医療魔法だろうが」


「何者なんだ……あのよそ者は!」


 外野がやかましい。

 俺はテーブルの間を縫って、老人に歩み寄っていく。


「ほっほっほ。腕を斬り落として戦意喪失させるつもりじゃったが、裏目に出たようじゃの。逆に煽ってしまったか」


「別に。なんとも思ってねぇさ」


 老人の放ったあの光。

 あれはスキルによるものだろう。きっと神スキルに違いない。


「俺は『無職』のロートス・アルバレスだ。一応複数持ちだけど、スキルはクソスキルしか持ってない。あんたはどうだ?」


 俺の自己紹介に、またもや周囲がどよめいた。


「は? 『無職』だって? 最弱劣等職じゃないか」


「どうせハッタリだろ。生きる価値すらない『無職』があんな強いわけねぇ」


「ばか。この状況でなんでそんなハッタリかます必要があるんだよ」


「じゃあ本当に『無職』だってのかよ……信じられねぇ」


 そんな会話を無視して、老人はずれていたハーフパンツを引き上げる。


「わしは『神の申し子』チェチェン・チェンじゃ。神スキル『リュミエール・アッシュ』を持っておる」


 神の申し子ね。

 つまるところ、最高神エストの寵愛を受けた者ってところか。

 ある意味、因縁の対決になるわけだな。


「おお。『無職』と『神の申し子』の戦い。いいじゃねぇか、夢があるぜ」


「わしには冗談としか思えんのう」


「あっそ」


 チェチェンが動きかけたその瞬間、俺は後の先を取るべく前進する。

 強くなった俺の身体は、凄まじい速度でチェチェンへと突っ込んだ。

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