第366話 グランオーリスでの問題

「それはそうと坊主、おめぇはどうしてこの国に来たんだ?」


「王女に会いに。ほら、前にハナクイ竜に襲われた時、一緒にいただろ?」


「グランオーリスの姫さんがか? そんなわきゃねぇだろ」


 と、思うよな普通は。


「けどさ。指名手配されてたみたいで、入国した途端に捕まっちまったんだ」


「はっはっは! そりゃ災難だな! なんか悪事を働いたのか?」


「あれだよ。リッバンループの」


「大見得切ったやつか」


「そう」


 またもや笑うハドソン。


「そういうことなら、ほとんど冤罪だな。よーし俺達に任せとけ」


 何をするつもりだろう。


「おいラルス! 『無職』の坊主が捕まってるってよ! 俺達で預かってやるってのはどうだ!」


 ラルスと呼ばれた剣士の男は、兵士から俺達に視線を移す。


「なんだって?」


「だから、あのロートス・アルバレスがいるんだよ!」


「本当か!」


 ラルスと、もう一人の女が、早足でこちらにやってくる。


「やあロートスくん。まさかこんなところで再会するなんてね」


「どうも」


「捕まってるって?」


「まぁ……恥ずかしながら」


 ラルスは俺とオルタンシアを交互に見て、得心したように頷いた。


「兵士の皆さん。こちらへ」


 ラルスに呼ばれ、兵士達はぞろぞろとやってくる。


「この二人、俺達が預かるっていうのはどうだい? 責任を持って連行するし、君たちの名もしっかりと軍部に伝える。最近街の外は物騒だし、それが安全だと思うんだけど」


 兵士達は顔を見合わせる。


「まぁ、冒険者の方がそう仰るのなら」


「いいと思うぞ。またドラゴンなんかに襲われちゃ堪らん」


 異論はないようだった。


「決まりだね。ロートス・アルバレスとその連れの身柄は、俺達『トリニティ』が引き受ける」


「はっ!」


 敬礼する兵士達。

 王国の冒険者はみんなグランオーリスに来ればいいんじゃないかな。

 そう簡単な話でもないか。この人達の実力があるからこそ、この国で冒険者をやっていけるんだろう。

 なにせ『トリニティ』の実力とは言えば、アイリスのお墨付きだしなぁ。


 そういうわけで、俺とオルタンシアは『トリニティ』の三人の保護下に入ることとなった。

 といっても、やることは変わらない。

 馬車に揺られ、王都を目指すっていうところはな。

 道中。ラルス達に事の経緯を話すと、彼らは驚いて笑った。


「へぇ? お姫様に会いにグランオーリスまで? なかなか英雄してるじゃないか」


「そうかな?」


 英雄してるっていう表現もどうなんだろう。


「王子様気取りってわけぇ?」


 魔法使いの女ミラーラが気だるそうな声でそんなことを呟く。


「別にそんなつもりはないけどさ」


「けど、なにもこんな時に来なくてもよかったのにな」


 しみじみとラルスが言う。


「ん? どういうことだ?」


「今この国じゃ、そこかしこで強力なモンスターが大量発生してるのさ。さっきのハナクイ竜みたいなのがごろごろとね。まぁ、そのおかげで食うに困ることはないんだが」


 モンスターの大量発生とな。

 ドラゴンレベルがごろごろしてるって、それは国家的にやばい状況なんじゃないのか?


「噂じゃ、邪神の仕業らしいぜ。大昔に封印された邪神が、復活しようとしてるっていうハナシだ」


「あんなのただのゴシップでしょぉ? なにぃ? ハドソンったら信じてるのぉ?」


「はっはっは! ロマンがあるじゃねぇか!」


 邪神が復活か。

 ファルトゥールしか思い浮かばないな。

 しかし、創世の女神を邪神呼ばわりなんて、世界の変遷に思いを馳せざるを得ないぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る