第365話 『トリニティ』

 兵士達がてんやわんやしている。オルタンシアも、ドラゴンの巨大な姿に怯えている。

 ふむ。


「ありゃハナクイ竜だ。そこまでの脅威じゃないだろ」


「あの……種馬さま。ハナクイ竜って、ファイアフラワードラゴン、ですよね?」


「そうそう」


「ドラゴンは、他種族を殺す習性があるんじゃ……」


「返り討ちにしたらいいんだよ。ドラゴンくらい」


 俺は馬車を降りようと立ち上がる。

 その時だった。

 ハナクイ竜が灼熱のブレスを吐いた。閃光にも見紛う火炎。圧倒的な熱量の奔流が、眼前に迫る。


「カスケード・ウォールっ!」


 その声は突然やってきた。

 目の前に落下してきた滝のような水の障壁が、ドラゴンのブレスを完全に相殺していた。


「なんだ!」


「わからん! 何もわからん!」


 兵士達は本当に慌てているようだ。周りの状況が見えていない。

 だが俺にはわかるぞ。

 宙に浮遊する魔法使いの女が、守ってくれたのだ。


「でかしたぞミラーラ!」


 そしてさらに二人の男が降ってくる。


「ハドソン! ブレス後の隙を逃すな!」


「応ッ!」


 一人は精悍な剣士。もう一人は筋骨隆々のスキンヘッド。

 二人は息の合った連携で、ハナクイ竜の首に集中攻撃を仕掛ける。

 怒涛の連撃。すごい実力だ。相手に反撃の余裕を与えなていない。

 ハナクイ竜は、そのまま首をずたずたにされ、息絶えて倒れてしまう。


「な、なんと……ドラゴンをあんなに簡単に……」


「冒険者だ。冒険者が助けてくれたぞっ」


 兵士達は喜びながら、三人の冒険者のもとに走っていった。


「ありがとうございます! おかげで助かりました!」


「流石は冒険者の方々! 素晴らしい腕前ですな! あなた方は命の恩人です!」


 あれ? やっぱりなんか王国とは冒険者の扱いが違うなぁ。

 兵士が冒険者にペコペコするなんて、向こうじゃ見られない光景だぞ。


「いやぁ。とんでもない。俺達もこのドラゴンを追っていてね。本当に、間に合ってよかった」


 冒険者の方も謙虚だな。

 というか、あの冒険者パーティ。どこかで見たような。

 記憶を探っていると、筋肉モリモリのスキンヘッド男がこちらに近づいてきていた。


「よう! 久しぶりだな坊主!」


 太い腕を持ち上げ、豪快に笑う。


「……ああ! 『トリニティ』の!」


「そうだぜ。憶えててくれたみてぇだな! はっはっは!」


 いつかハナクイ竜と戦った時に救援に来てくれたパーティだ。そして、冒険者ギルドに命を狙われた時に助けに来てくれた人達でもある。

 まさか、こんなところで会うなんで。


「あんたらもグランオーリスに来てたんだ」


「おうよ。王国はちっとばかしゴタゴタしちまってるからな。こっちの方がのびのびやれるし、仕事もたくさんある」


「そうみたいだな」


 俺はハナクイ竜の死骸を見て、肩を竦めた。


「ま、坊主がいたんじゃ、助ける必要もなかったかもだな」


「いや。そんなことはないさ。助かったよ」


「はっはっは! そいつはよかった!」


 ハドソンと呼ばれていたスキンヘッド男は、またもや豪快に笑う。

 なんだか、憎めない人だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る