第342話 真犯人はウィッキーじゃない
「次。『いつしか陽光は黒く染まり、月光は灼熱の火炎と化すだろう』じゃな。これはエストの力が、実生活の上で生きる者へ悪影響を及ぼす状態のことを言っているのじゃろう。例を挙げるなら」
アカネがサラを一瞥する。
「亜人が迫害され、戦争が起きた。とかの」
わからない話じゃないな。
スキルは神の加護であり、生活に欠かせない便利なものとして生まれた。だが時代を経て、それが厄災の原因になっている。
「続けるぞ。『そしてまた、新時代は朽ち果て、旧き神と偽りの太陽を呑み込まん』というところじゃが、ここでいう新時代とは現代の事じゃ。それが終わりを告げ、旧き神ファルトゥールとエストのどちらをも打ち倒そうとしている、みたいなニュアンスじゃな」
「ちょっと待ってくれ。それってさ……」
「おぬしがやろうとしていることじゃ」
まじかよ。
完全に予言が的中している。すごいな昔のジェルド族。
「最後はまとめていこうかの。『我ら悲願の民は解き放たれん。すべては混沌に彩られし無を纏う自由の士によって果たされる。降臨せしは救世神。〈尊き者〉ロートス・アルバレス』」
「そこはね~。うちでもそれとなく解読できてるんだよ~」
「ほう? では聞かせてもらえんか?」
「悲願の民は余たちジェルド族のこと~。そんで~、混沌に彩られし無を纏う自由の士っていうのは~、たくさんのクソスキルを持った『無職』ってことかな~って」
アルドリーゼの言葉に、アカネは頷いた。
「わらわの見解も同じじゃ。間違いなさそうじゃの」
うーむ。
「なぁアカネ。気になることがあるんだけどさ」
「わかっておる。おぬしの名前が出てきていることじゃろう?」
「ああ」
正しい名前まではっきりと書かれているなんて、正直ありえない。そんなの予言の範囲を超えている。未来予知的なサムシングだ。
「なんで千年後に生まれる俺の名前を知っているのかってのは、謎すぎて夜も眠れなくなりそうだぜ」
「そんな大げさな……」
サラが呆れたように言う。確かに大げさだが、それくらい謎ってことだよ。
「アルドリーゼ。それについては何か知っておるのか?」
「いんや~。さすがにそこまではわかんないかな~。余たちにとっても不可解な部分だよね~。個人名まではっきりと書かれているなんて。でも~、だからこそ信憑性があるってのも事実なんだよね~」
たしかに。
信憑性という点では疑いようもない。
テント内に奇妙な沈黙が訪れる。
「ここからはわらわの推測なんじゃが……」
それを破ったのはアカネだ。
「この予言は、千年前に書かれたものではないと思うのじゃ。いや、そもそもこれは予言ですらない」
「どういうことだ?」
「おそらくこれは、これから書かれるものなのじゃ。おぬしがエストを倒してから、あるいは倒す直前あたりに書かれるものじゃろう」
「意味が分からないんだが」
「察しが悪いのう」
溜息を吐くアカネ。
「つまり~あれかな~? その石板って~、未来から過去に送られたのかな~」
「そういうことじゃ」
なんだそりゃ。
じゃあ、出来事を綴った詩がタイムスリップしただけってことか。それは予言じゃないな。
「あくまのわらわの推測じゃがの」
「でもそれが本当なら~、誰がその予言を書いたのかな~」
「そりゃあおぬし以外おらんじゃろ」
「え~」
「おぬしのスキルはなんじゃ。言うてみぃ」
にやりと笑って尋ねたアカネに対し、アルドリーゼはそれまでの無気力な表情を一変させ、キリっとした美貌になる。
「余のスキルは『カコオクリ』。物質を次元の狭間に送り、時を超えさせる」
「やっぱりの。とんだ食わせものじゃ。最初からすべて分かっておったのではないか?」
数秒間続いたアルドリーゼの凛とした状態は、すぐに元のダラダラした所作に戻る。
「それは言いがかりだよ~。だって余の『カコオクリ』じゃ、頑張っても数時間前にしか送れないし~」
「ふむ? なるほどのう。となると真犯人、もとい共犯者がおるな」
そう言ってこちらを見るアカネ。
「え? 俺?」
「他に誰がおる?」
「まじかよ」
そりゃ俺がやったなら、名前が載っててもおかしくないけどさ。
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