第333話 隣国マッサ・ニャラブ共和国

「ご主人。マッサ・ニャラブ共和国って、どんな国なのですか?」


 シーラ達の偵察を待つ間、サラがそんなことを聞いてきた。


「マッサ・ニャラブはな。お隣の国だよ」


「それは知ってますけど……」


 いや。

 正直なところ、マッサ・ニャラブがどんな国なのか、あんまりよくわかっていない。

 というのも、王国との交流があんまりない国だからだ。

 隣国であるにも拘らず人の往来がないというのは、ちょっと不思議にも思えるが、そういうものだから仕方ないとしか言いようがない。


「マッサ・ニャラブは、三十年ほど前に興った新興国ですわ」


 俺が黙っていると、アイリスがなにやら喋り始めた。


「気候は温暖で乾燥していて、国土の一部に大きな砂漠があるのが特徴と聞きます」


「へぇ~」


 サラが頷いている。


「そんなことよく知ってるねアイリス」


「たまたま知る機会があっただけですわ」


 アイリスって意外と人間社会の事情とかを知っていたりするけど、一体どこでそんな知識をつけるのだろう。


「なぁアイリス。王国とマッサ・ニャラブって、やっぱ仲悪いのか?」


「はい。決して友好とは言えないと思います」


「なんで?」


「歴史的な背景が関係しているのですわ」


「詳しく教えてくれ。知っている範囲でいい」


「よろこんで」


 アイリスはいつもの上品な微笑みを浮かべ、空色の長い髪を揺らした。


「マッサ・ニャラブに住むジェルド族は、永らく王国の支配を受けてきたのです。もともとは独立していたジェルド族を、王国が侵略し併合したのがおよそ百年前。そこから七十年の月日を経て再び独立したのが三十年前。独立には周辺国からの圧力があったと言われています。そういった経緯から、今まで表立った対立はないけれど友好ともいえない、という関係が続いてきたのですわ」


 なるほどな。


「王国で内乱が起きたせいで、そのバランスが崩れたってことか」


「おそらくは」


 皮肉なもんだな。


「えっと……それじゃあ」


 サラがうーんと唸る。


「マッサ・ニャラブは、王国を滅ぼすつもりなんでしょうか?」


「どうだろうな」


「あり得ない話ではありませんわ。ジェルド族の恨みは大きいでしょうから」


 国とか民族同士の対立ってのは、根深いものがあるからな。

 なんとか戦争行為を止めたいものだけど、向こうの出方次第ではどうにもならない場合もある。

 そんなことを考えていると、シーラ達守護隊が戻ってきた。


「ただいま戻りました」


「ご苦労さん。どうだった? 状況は」


「それが……」


 シーラはなにやら困惑しているようだった。


「ん? どうした?」


「マッサ・ニャラブの軍と、アインアッカ村およびカード村の住民とが、非常に友好的な関係を築いていました」


「なんだって?」


 どういうことだ。それは。

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