第334話 こういうのでいいんだよ
「実際に見て頂いた方が早いかと」
「でもシーラさん。大丈夫なんですか? 仲良くしてるっていっても、相手は軍隊なんですよね?」
サラの懸念はよくわかる。俺も同じ気持ちだ。
シーラは俺を見る。
「大勢で行けば警戒されてしまうかもしれません。我々守護隊は姿を隠しますゆえ」
「サラとアイリスを連れて行けばいいんだな」
「はい」
「わかった」
シーラが行ってもいいというのなら、大丈夫なのだろう。
そういうわけで、三人で森を出て、アインアッカ村へと向かう。
近くの草むらに身を潜め、村の様子を窺うことにした。
ちょっと前まではここに対亜人連合の前線基地があったわけだが、今はそんなものは影も形もない。代わりに、マッサ・ニャラブ軍の野営地が村の周辺に置かれていた。
「あれ?」
驚いたのは、その兵士達は全員が女だったことだ。
閑静な村に張り巡らされた道に、軽装の女兵士達が行き交っている。その光景が、村の外からでも目視できた。
「アイリス」
「はい。ジェルド族は男性が生まれにくい種族。ですからもちろん、軍も女性で構成されているのですわ」
「男が生まれにくい……エルフの里じゃ病気のせいでそういうのがあったが、ジェルド族は違うのか?」
「申し訳ありません。そこまではわたくしにはわかりませんわ」
「そっか」
ふむ。
「ご主人様。どうするんですか?」
「女しかいないというのなら話は早い。飛び込むしかないだろう」
「え?」
「これは決して俺が女好きだからというわけでは断じてなく、女で構成されているという軍隊に知的好奇心をそそられただけであって、別に軽装で露出度の高い女兵士の姿を拝みたいといういかがわしい想いなど毛頭持ち合わせていないということは強く主張しておきたい」
「誰に言い訳してるんですか?」
「強いていうなら自分自身かな」
サラのジト目は無視するとして。
こそこそしていたら怪しまれるだろうから、ここは堂々と村に入ろう。
「行くぞ」
俺は立ち上がり、サラとアイリスを連れてアインアッカ村の入口へと赴いた。
「待て」
当然、入口には衛兵が立っていた。数は二人。
背の高い褐色の女兵士だ。熱帯の地域からやってきたからなのか、やはり肌の露出が多い。豊かなおっぱいの谷間もさることながら、晒した屈強な腹筋がいやにセクシーである。にも拘らず口元を飾り布のマスクで覆っているところが、そのいらやしさを引き立たせていた。
「これは……新しいあれに目覚めそうだな……」
俺の呟きを訝しむ女兵士は、鋭いまなざしを向けてくる。
「小僧。ここに何の用だ。今この村はマッサ・ニャラブ総帥アルドリーゼ様の支配下にある。それを知っての訪問か」
「えっと」
何と言ったものか。
「俺はこの村の生まれなんだ。王都から帰郷してきたんだけど」
まぁ、こう言うしかないわな。
二人の衛兵は顔を見合わせる。
「なるほど。無害な子どもを装い、我らを偵察に来たというわけか」
ばれてるやん。
「曲者だ! 捕らえろ!」
その瞬間、村の中から十数の女兵士達が現れ、あっという間に取り囲まれてしまう。
「ちょっと待ってくれ。それはやめた方がいい。こっちに敵意はないし、争う理由もないって」
「こちらにはある」
「ない」
「ある」
「ない」
「ある!」
やっぱりこうなるのか。俺の考えなしの行動ってほんとクソだよな。
こうしている間にも、兵士達は続々と集まってくる。
サラはびびって俺にしがみついているし、アイリスは相変わらず優雅に微笑んでいるだけだ。
しゃあねぇ。
「捕まえるってんなら、抵抗するぞ?」
「やれるものならやってみろ」
俺は溜息を吐く。
「強いぜ? 俺」
あっ。
今の俺、チートでイキる転生者っぽいムーブしてる。
そうそう。こういうのがやりたかったんだよ。こういうのがやりたくて転生を望んだんだった。結果としてハメられたわけだけど。
「スキルの使用を許可する! ひっ捕らえろ!」
隊長らしき女がそんなことを号令した。
戦いが、始まってしまった。
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