第312話 折り返し地点

「研究? こんな時にか?」


 三人にはサラの救出に手を貸して欲しいというのに。どうしてまたこのタイミングで。


「大切な研究のようです。あちらの方も逼迫した状況だと、そう聞いております」


「まじか……」


 先生のことだ。何か深い考えあってのことだろう。

 俺が起きる前にベッドから抜け出していってしまったくらいだから、よほど時間が惜しいんだろうな。

 寂しいが、仕方ない。


「最後に。これは重大な報告ではないのですが、エレノア様が主様を探しておられました。会いに行って差し上げるのがよろしいかと」


「そいつは重大な報告だよ」


 俺は大きく伸びをする。


「以上です。これからヘッケラー河まで道と転移魔法陣の状態を調査して参ります」


「ああ。頼む。できるだけ早く出発できるように」


「御意」


 一礼し、シーラは迅速に部屋を去る。

 守護隊ってすっごい有能だな。マジで助かる。


「ふぅ……」


 今もこの学園の地下では、エンディオーネとファルトゥールが戦っているのだろう。正真正銘の神々の戦いか。一体どんな攻防が繰り広げられているのか。

 いつ決着がつくのかは定かではない以上、俺ものんびりはしていられない。

 サラを救出し、それからエスト消滅へと動き出さなければ。


 それが終わったら、俺の物語も終わりを迎えるか。

 みんなに忘れられるのは辛いが、それが俺の転生者としての使命なんだろうな。この世界に来た意義を見出すとすれば、そう考えるのが自然だ。


「ん?」


 今気づいた。テーブルに一枚の紙が置いてある。こんなもの置いたっけか。


「これは」


 置手紙だ。達筆な文字で文章が綴られている。


『決してあなたを孤独にはしません。私も一緒に運命に立ち向かいます』


 短いメッセージ。

 だからこそ、俺の心に強く響いた。


「先生……」


 強いな、あの人は。

 ただ甘んじて運命を受け入れるのではなく、真正面から挑もうとしている。


 俺はどうして諦めているのだろう。何故みんなに忘れられてしまうことが当然のように感じているのか。

 悲しむのが自分だけだからか?


 俺はいつから、他人だけを考えて生きるようになっていたのか。

 自分を蔑ろにして、他人が幸せならそれでいいなんて。


 自己犠牲の精神に酔っていたんじゃないか?

 そんなものは偽善だ。


 塔の地下でエレノアが自分をファルトゥールの依り代にしろと口にした時、俺はあいつになんて言った?

 まず自分を大切にしろ、だ。


 特大ブーメランだな。呆れるぜ、まったく。


 思わず笑いが漏れる。

 俺はなんて恵まれているのだろう。

 先生だけじゃない。ウィッキーもルーチェも。シーラもエレノアもアイリスも。俺の為に力を尽くしてくれている。他のみんなもそうだ。


「しゃあねぇ……目指すは大団円。文句のつけようのないハッピーエンドだ」


 涙を拭い、俺は部屋を出る。


 俺の戦い。


 いや。


 俺達の戦いは、これからだ。

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