第302話 神族はもういないしなぁ

 先生の研究室には全員欠けずに揃っていた。


 エレノア。

 アイリス。

 アデライト先生。

 ウィッキー。

 ルーチェ。

 シーラ。

 マホさん。

 フィードリット。

 フェザール。


 守護隊を合わせれば二十人は超えている。

 いつの間にか大所帯になったな。


「おかえりなさいロートスさん。塔の内部で起こったことを聞きました。大変だったでしょう?」


「まさか女神の姉妹喧嘩に巻き込まれるとは思ってなかったですよ」


 本当にくだらない。

 とはいえ、あいつらが何を原因に争っているかがわからない以上、簡単には判断できないか。


 俺は部屋を見渡す。ミーナと戦ったメンバーは無傷のようだ。あの人数でぼこぼこにしたのだろう。

 それよりも負傷した守護隊の数人が心配だ。医療魔法はかけ終えているようだが、気を失ったままの者もいる。


「あの塔に脚を踏み入れようとして、ファルトゥールの怒りに触れたのです。あの場所に入れるのは、主様とエレノア様だけというのは真実でしょう」


 シーラが深刻そうに言う。


「しばらくは休ませてやれ。最近働かせすぎたかもしれないな」


「お心遣いに感謝いたします。ですが我々守護隊の使命は主様を守ること。そのために生き、死ぬのが本望です」


「それは俺の本望じゃないからやめとけ。命あっての物種だ」


「……御意」


 俺は空いていた椅子に腰を下ろすと、天井に向けて溜息を吐いた。

 疲れたぜ。ほんの少しな。


「これからどうするか」


「サラちゃんを助けに行くんでしょう?」


 呟きに答えたのはルーチェだった。


「もちろんだ。けど、今はまだその時じゃないみたいな雰囲気あるだろ?」


 なんとなくだが。


「うむ。ファルトゥールをなんとかしない限り、ドルイドの娘を助けても意味がない。クリスタルに捕らわれたままだ」


 フェザールの言うこともわかるが、感情としては早く助けに行きたいんだ。機関にさらわれたら、何をされるかわかったもんじゃない。


「お気持ちはわかりますが、機関とてサラちゃんに下手な手出しはできないでしょう。大切なファルトゥールの器ですから」


「先生……そうかもしれませんけど」


「落ち着くっすよ。コッホ城塞に行くにはヘッケラー河からじゃないと無理っす。今から準備しても、一日以上かかるっすよ」


「……わかった」


 ここは冷静なみんなの意見に従おう。

 サラを確実に助けるためには、それが一番いいかもしれない。


「ルーチェ。エストを消滅させるにはどうすればいい?」


「え?」


「エンディオーネが言っていたんだ。お前ならその方法がわかるって」


「エンディオーネ様が? うーん……」


 顎を押さえるルーチェ。


「神族と同じくらいの力を持つ人が集まれば、エストの領域に行けるかもしれない、かな?」


「まじか」


「や、たぶんだよ? たぶん……」


「神族と同じって、具体的にどれくらいなの?」


 エレノアの質問に、今度は額を押さえるルーチェ。


「神族と人間との違いって、スキルの有無だけじゃないの。それは表出した特徴というだけで、もっと本質的なところだと、運命に逆らう力の強弱なんだよ」


「運命に逆らう?」


「そう。神族はエストを作ったけど、自分たちはその加護を享けなかった。自分たちが作ったものに取り込まれる危険性があったから」


「じゃあ、亜人を集めればいいってことね」


 エレノアがどや顔で言うが、ルーチェは首を横に振る。


「そう単純な話じゃないの。昔ならそれでよかったかもしれないけど、エストが生まれて長い時間が経った今、エストの加護を享けないことと、運命に逆らう力は、まったく別の性質になってしまったから」


「じゃあどうすればいいのよ」


 拗ねたエレノアを尻目に、ルーチェの目は俺に向いた。


「ロートスくんの『妙なる祈り』。その影響を受けた人なら、運命に立ち向かう力をその身に宿しているはずだよ」


 ふむ。『妙なる祈り』の影響とな。

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