第263話 エンディオーネ、再び

 一面、真っ暗闇の空間。

 見渡す限りの黒。何もない。

 どこまでも続く闇。


 なんだろう。俺はこの場所に来たことがあるような気がする。

 俺は死んだのか?

 ルージュの槍に貫かれて、今度こそあの世に来てしまったのだろうか。


「そんなわけないじゃーん!」


 舌足らずな声と共に目の前に現れたのは、言わずもがなの死神幼女。

 エンディオーネだった。


「お前……」


「やーやーピンチだねぇ~。第二の人生最大のピンチだったりして?」


 ぴょんぴょんと俺の周りを跳ねる。うっとうしい。


「おい」


「いま何が起きてるか知ってる? あの親コルト派とかいう人達が、神族のみんなを殺しちゃってるんだよ? ひっどいよね~? これじゃあもうロートスくん。エストを消せなくなっちゃうよ」


 なんだと。まじで神族がやられたってのか。


「まぁでも、似たような力を持つ人達がいれば大丈夫かなぁ? 神族って言っても、つまるところただの古代人だしねぇ」


 俺はただ呆然とするばかり。


「それに、この国の王様や貴族達も、どんどんと粛清されていってるみたいだね。この調子じゃ、今日中に国の上層部がすげ替わっちゃうんじゃないかな? 王国崩壊! や~クーデターってこわいこわい」


「んなこたぁどうでもいい。いやどうでもよくはないけど、今のところはどうでもいい」


「え~どっち~?」


「俺はどうなったんだ。死んだのか。エレノアとアイリスは?」


 うんうんと頷くエンディオーネ。


「まー安心してよ。ここはキミの精神世界。外の時間は、止まってると考えてよろしい」


 よかった。いやいや、よくはない。だが知らぬ間にことが終わってなければまだ望みがある。


「精神世界? 神族会議の時と同じような感じか」


「そ。厳密にいうと、あの時のは集合意識の精神世界で、今はロートスくん個人の精神世界なんだよ」


 なるほど。どう違うのかまったくわからん。


「俺の精神世界に入ってきたのかお前」


「そゆこと~」


 けらけらと笑うエンディオーネ。何がそんなにおかしいのか。


「何のために……」


「決まってるじゃん。約束を果たしに来たんだよ。やっと条件が揃ったからね。いや~待った待った。待ちくたびれたよ~」


「約束? 条件?」


 いったい何のことだ。

 俺はこいつと約束をした覚えなんて。


「憶えてない? ほんとに~?」


 いや、あるとすれば。

 トラックに轢かれて死んだ時。

 俺が口にした言葉。


「欲しかったんでしょ~?」


 妖艶な微笑み。

 振りかざした大鎌の刃に、あるはずのない光が映り込む。


「チート」


 エンディオーネの大鎌が、俺の首を斬り落とす。

 あ、やっぱりこうなるのね。

 痛くないからいいけど。


 そして俺は、現実世界へと引き戻された。

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