第252話 エストの処遇決まり

 俺をそっちのけで、会議は進んでいく。


「ではエストは封印する方向でいこう。必要ならまた解放すればよい」


「だね」


「コントロールできるようなものか? いっそのこと消滅させてしまった方がいいんじゃ?」


「一理ある」


「消滅は取り返しがつかん。封印ならばまだつぶしがきくじゃろう」


「うーん。そうかもしれないけど」


 そこでふとルーチェと目が合う。

 微笑みを浮かべている。かわいい。


「皆さん、ちょっといいですか?」


 議論をぶった切って、ルーチェが挙手をする。全員の視線を一身に浴びて、すこしだけ緊張してそうだった。


「ロートスくん本人の意思を確認した方がいいと思うんだけど。どうでしょうか」


 白髭が頷く。


「それもそうじゃ。いかんいかん。歳を取るとどうしても頭が固くなってしまう。やはり若い者の意見はありがたい。して、どう思う? ロートスや」


「どうと言われてもな」


 俺としては、戦争を止めることができるなら封印でも消滅でもいい。どちらかといえば、より確実な方がいいけど。

 とはいえ。


「エストの加護がなくなったら、世界は大混乱になりそうだ」


「まず間違いなく混乱するじゃろうな。恐慌状態に包まれるじゃろう。戦争とどちらがマシかと問われれば、答えるのはとても難しい」


 だよな。

 理想は混乱なく戦争を止めることだけど。流石に高望みが過ぎるか。


「変化に波乱はつきものだ。時代を変えようというのに、平穏を保てるはずもない。道理にかなわないことは不可能だぞ」


 神族の一人に言われる。もっともな意見だ。


「大丈夫。混乱は悪いことばかりではない。運命を変える上で避けて通れぬ道ならば、いかにして良い方向に進むかを考えようじゃないか」


 そうだな。デメリットばかり考えて、メリットを捨ててしまうようなことはだめだもんな。


「エストは消滅させよう」


 俺は明言した。


「運命に束縛される世界を終わらせる。ひとりひとりが自分で人生を切り開く世の中の方が、希望がもてるだろうしな」


 白髭が笑い声をあげる。


「よきかな。ロートスがそういうのなら、そうしようではないか。皆も異論はないな?」


 反論は出てこない。


「では決まりじゃ。最高神エストは消滅させる。明日の夜、消滅の儀式を行おうではないか」


 すんなり話がまとまったな。


「なぁマホさん」


「なんだ?」


「どうして俺の意見が重視されるんだ? 神族ですらないのに」


「……神族じゃないからだろうよ。それにお前は――」


「いっけな~い! 遅刻遅刻~!」


 マホさんの言葉を遮って、舌足らずな幼女の声が響く。

 そして現れる魔法陣。光の影。


 おい待て。

 この声には聞き覚えがある。

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