第253話 不死身はやっぱりチート

 最後の魔法陣の上に出現したのは、煽情的な黒いレオタード姿の幼女。身の丈以上の大鎌を担いでいる。

 忘れもしない。

 俺がトラックに轢かれた時に現れたあの死神だ。


 まじかよ。この世界の神族だったのか。


「ごめんなさーいっ! また遅刻しちゃいましたー!」


 申し訳なさそうにしなをつくる幼女に、みんなの呆れたような視線が集まる。


「またかエンディオーネ。これで何度目だ」


「ええっと……四千七百二十八回目でーすっ」


 そんな遅刻したら普通クビだろ。


「かまわないよ。どうせいてもいなくても変わらないんだ。隅っこで鎌の手入れでもしてな」


 神族の一人に言われ、死神幼女エンディオーネは頬を膨らませる。


「ひっどーい。これでも頑張って急いだのにー」


 俺は言葉を失っていた。

 頭や胸の中で様々な感情が渦巻いている。それを言葉で表現するのは困難だ。

 複雑にして怪奇。

 俺にも俺の心がわからない。


「なぁ。お前」


 それでもやっとの思いで声を絞り出す。


「ん~?」


 エンディオーネが俺を見る。


「あっ! あなたがロートス・アルバレスくん? うわーっ本物! 生だよっ! 生ロートスだ!」


 生って言うな。


「お前。俺を憶えてないのか?」


「へ?」


「俺をこの世界に連れてきたのは、お前だろうが!」


 意図せず声を荒げてしまう。

 今すぐ胸倉をつかみ上げてやりたいところだが、魔法陣の上から動けないので断念する。


「あれー? もしかしてあの時の? 間違えて殺しちゃったあのお兄さん?」


「そうだよ!」


「あ~」


 ぽんと手を叩くエンディオーネ。


「あの時のお兄さんがロートスくんなんだっ! うわ~っ。これがかの有名な巡りあわせってやつ?」


「喜んでんじゃねぇ。お前のせいで俺はかなり苦労したんだぞ」


「え~? ロートスくんが苦労したのはあたしのせいじゃないでしょ~」


「俺はチート能力マシマシって言ったはずだろ。なのに大量のクソスキルしかありゃしねぇ。こりゃ一体どういうことだよ」


 会議はしんと静まり返る。


「クソスキルか……そいつはロートス、勘違いじゃぞ」


「勘違い?」


「我ら神族にスキルを与える力はない。それはエストのみが持ち得る権能。今となっては、エストの働きそのものといってよい」


 じゃあ、俺のチート能力はどこにいったんだ。


「エンディオーネの権能は、次元を司る力。そして死と祝福の加護なんじゃ」


「だから、俺を異世界に連れてこれたってことか」


 白髭は首肯する。


「俺は、何度死んでも蘇る能力がある。それが死と祝福の加護ってやつなのか?」


 途端、場が騒然となった。


「死んでも蘇るじゃと?」


「なんだそれは。死を克服するなんて、太古の神族ですら不可能だったのに」


「それってつまり、不死身ってことよね?」


「ありえないぞ……!」


「神族の権能、エストが与えるスキル、人間が開発した魔法。どれも、生命の法を覆すことなどできなかった。ヘッケラー機関のマシーネン・ピストーレ五世がそれらしきスキルを創り出していたが、あれも疑似的なものに過ぎないからな」


 神族たちはみんな驚いている。

 俺も驚きだ。この世界でも、不死身はやっぱりチートだったのか。


「ふむ……エンディオーネ。おぬしの権能。いま一度、詳しく説明してくれんか」


「いいよー! へへん!」


 死神幼女はつるぺたの胴体を反らしてドヤ顔になる。


「えっとー。あたしの加護はねー……」

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