第248話 恨みつらみ
しばらく街を歩く。
特に目的地はない。観光がてら、リッバンループの街を見て回っているだけだ。前回来たときは急いでいたから、こういったこともできなかった。
陽が落ちる頃、俺とアイリスは人気の少ない路地裏に入る。
見ようによっては、逢引の場所を探すカップルみたいだろう。
さて、何故こんなことをしているのか。別に遊んでいるわけじゃない。
無防備な姿を晒すことで、刺客を誘いだそうとしているのだ。
どうせ襲撃されるのならば、余裕のあるうちに対処しておいた方がいいと考えたのさ。
案の定、すぐに十数人の冒険者グループに囲まれることとなった。
「早いな。もうちょっと警戒してくるかと思ったけど」
あえて緊張感のある声で呟く。
「B級のロートス・アルバレス。ここで会ったが百年目や」
俺を囲んだグループのリーダーらしき赤毛の少女が、身の丈に合わない長大な槍を突きつけてきた。
「ルージュ姉さんの仇。きっちり取らせてもらうで」
「なんだと?」
ルージュといえば、冒険者ギルドで戦ったS級の女冒険者だっけか。
「仇ってのはどういう? 別に死んでないだろ、あいつ」
「黙れや。姉さんはな、ギルド長の汚職に加担したやなんやと言われて、冒険者ライセンスを剥奪されたんや。軍に捕まって投獄までされてしもた。冒険者としては死んだも同じなんや。あんたも冒険者ならわかる話やろ」
いや全然。
というか、ルージュを倒したのは俺じゃなくてヒーモだぞ。俺は何かしたようで実質的に何もしていなかったからな。恥ずかしい話。
「ってなわけで……死にさらせやぁっ!」
突如として、少女が爆発的な勢いで迫る。身長の倍以上もある柄。馬の頭ほどもある穂先。槍としてはあまりにも巨大な一撃が、俺の顔面目掛けて放たれていた。
だが。
「逆恨みも甚だしいですわ」
俺の前に立ったアイリスが、人差し指の先っぽでその一撃を止めていた。
「な、なんやて……?」
驚くのも無理はない。相変わらずアイリスは規格外だ。
「あの方が汚職に手を染めたのは事実。それをマスターのせいにしようなんて、まったくもって言語道断」
アイリスが軽く指を押すと、赤毛の少女はまるで蹴っ飛ばされたように後ろに吹き飛ぶ。
「ふざけんなや!」
なんとか体勢を立て直した少女は、歯をむき出しにして声を荒げた。
「姉さんが何のために冒険者やってたか知っとるか! 孤児院を作って、あたしらみたいな親を持たない子どもを育ててくれたんや! 冒険者として生きる方法も教えてくれた」
心からの叫びだった。
グループの少年少女達も、同じ気持ちの表情をしている。大きな怒りと深い悲しみを共有しているようだ。
「孤児院にはまだまだ育てなあかん子ども達がようさんおる。その子らの未来を、あんたは奪ったんやで! わかっとんのか!」
いやいや。
「気の毒だとは思うけどな」
あのルージュとかいう女、そんなことをしていたのか。慈善事業的な感じかな。そこに関してはすごいと感じざるを得ない。
けど。
「俺のせいじゃないんだよなぁ」
その言葉が、少年少女達の感情に火をつけたのだろう。
みな怒り狂ったように、それぞれの武器を手に襲いかかってきた。
まぁ、一瞬にしてアイリスに制圧されてしまったので、俺にはよくわからなかったのだが。
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