第221話 デジャヴ

 とは言っても、俺にできることなんてたかが知れている。

 戦場に行ったところで何ができるのだろうか。


 そんなことを考えながらエレノア達を尾行した結果、辿り着いたのは村の外にある小高い丘であった。

 俺は草むらに身を寝かせ、クソスキル『限られた深き地獄の耳朶』を発動する。よかった。これはなんとか使えるみたいだ。


 伝令が何かを言ったあと、イキールが頷く。おそらく伝令は、ここで戦ってくれとかなんとか言ったんだろう。


「なるほど。実にお父様らしい判断だ。堅実で遊びがない。兵法通りだな」


 無表情で言うイキールに、エレノアの眉が曲がる。


「それって褒めてるの? けなしてるの?」


「さぁ? 勝手に想像したらどうだ?」


「なによそれ」


 軽口を叩く余裕があるのかよ。


「あれか」


 イキールが呟く。

 その視線を追うと、百人規模の亜人の軍勢が進軍してくるのが見えた。


「百人って、意外と少ないのね」


 エレノアが剛毅なことを言う。

 全然少なくないって。百人だぞ百人。肝が冷えるだろ普通。


「大した自信だなキミは。何か秘策でも?」


「どうかしら。自信っていうなら、あなたも負けたものじゃないと思うけど?」


「当然だ」


 イキールは亜人軍を見据え、腰の剣を握り締める。


「あの時、ダンジョンでスライムに負けてから、僕は死に物狂いで訓練を積んだ。あの時のような屈辱は二度とごめんなものでね」


「ふぅん。それで、少しは強くなれたってわけ?」


 エレノアのぶしつけな問いにも、イキールは不遜な態度を崩さない。


「語らずともわかることだ」


 しなやかな所作で抜剣するイキール。ただそれだけの動作に、積み重ねた訓練の時間が表れているようだった。


「それもそうね」


 エレノアはエレノアで、ワンピースの裾を風に揺らしている。あいつがエルフの里でどれだけ強くなったのかは未知数だな。


「坊ちゃま、お嬢さん。ご歓談はそのあたりに。まもなく弓の射程に入ります」


「心得ている。リッター、しくじるな」


「御意」


 騎士リッターは、盾と剣を構え、戦いに備える。


「はー。まったく……お前に付き合ってると気が休まる時がねぇな」


 額を押さえ、呆れたように息を吐くのはマホさんだ。


「ごめんなさい。無理についてこなくてもよかったのよ?」


「そういうわけにもいかねーって。アタシは従者だからな一応。お前が一人前になるまでは、しっかり見届けさせてもらうわ。エルフの里の時みてーなヘマをしたくねーしな」


「ふふ。ありがと、マホさん」


 仲いいな。


 マホさんはグレートメイスを片手で振り上げ、準備運動をする。どうやら武器を新調したようだ。前に持っていたものとは違うグレートメイスを持っている。しかし相変わらずバカげた腕力だな。あの細い腕のどこにそんな力があるのか。

 あの人もヘッケラー機関の一員のはずだから、なにか秘密があるのかもしれないな。

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