第168話 言ったもん勝ち

(無駄なことだよ)


 歯車がレーザーを撃とうとしている。

 無駄かどうかは、やってみなきゃわかんねぇぜ。


 放たれた光線。一か八か、俺はその光線に真正面から挑んでやった。俺の体を壁にしてレーザーを防ぐ算段だ。


「主様っ……!」


 シーラの声。


 当然、ろくな戦闘力を持たない俺の力では、レーザーを防ぐことなどできない。

 俺の顔面は見事に吹き飛ばされてしまった。


 だが。


(おや?)


 俺の顔面は吹き飛ばされていなかった。いや、確かに吹き飛ばされたが、まるで吹き飛ばされていないような感じで無傷であった。そしてこれまた不思議なことに、切断された腕も元通りに生え揃っていた。


(……どういうことかな、それは)


 マシなんとか五世も動揺しているようだ。


 これはチャンスだな。

 ちらりと振り返る。セレンとウィッキーは逃げるような素振りは見せているが、実際逃げ出すことを躊躇っているようだった。


「早く逃げろよ!」


「イヤっす! ロートス一人を残していくなんて!」


「不義理」


 んなこと言ってる場合じゃねぇぞ。


「シーラ! 二人を連れて逃げろ! それくらいならできるだろ!」


「主様」


「逃げれるもんなら逃げてもいいって、こいつも言ってるぜ!」


(言ってないよ)


 知るか。俺にしか聞こえないなら言ったもん勝ちなんだよ。


「分かりました……! 主様、ご無事を祈ります!」


 シーラは仄かな魔力の光を身に纏い、ウィッキーとセレンを引っ掴んで臨天の間を出ていこうとする。


(勝手な真似をしないでくれるか)


 無数の光が歯車の前に現れる。

 あの数を撃たれたら避けられそうもないぞ。


 けど、させるかよ。

 俺は射撃のタイミングを見極め、直前で『フェイスシフト』を発動する。


(んっ?)


 急に存在感が大きくなったせいで、全てのレーザーの狙いが俺に変更された。放たれたすべてのレーザーを一身に受け、俺の肉体は跡形もなく消滅する。


(なんて不思議なスキルだ。面白いなぁもう)


 ふざけた野郎だ。

 だが俺は、まだ死んでいない。


 服はズタズタに斬り裂かれて見るも無残な状態になっているが、俺は無傷。健康的で体力に満ち溢れている。


(キミも僕と同じなのかい? 死の運命を操作し、自らの死をなかったことにする。僕のスキル『ホイール・オブ・フォーチュン』と同じ力を持っている?)


「さぁな」


 少なくとも俺にそんな大層なスキルはない。

 俺は『無職』だ。クソスキルしか持っていないただの無能なんだ。


(アルバレスの御子。まさかここまで僕に食らいつくとはね。失敗作の分際で、イライラさせてくれる)


 レーザーが効かないと悟ったのだろう。もとからそこにあったかのような感じで宙に現れたのは無数の武器。剣、槍、斧、矢。大きさも形も異なる様々な武器が、切っ先を俺に向けて浮遊していた。


(生かしておいてもよかったけど、キミも死んでくれ。後の憂いとなりそうだ)


 これはまずい。

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