第161話 カフェテリアにて

 適当な飲み物を飲みつつ、俺達は話を進めていた。


「なるほど。あのアデライト女史とその母君がギルドに狙われていると、そういうことだな?」


 フェザールは黒いコーヒーを飲みつつ感慨深げに呟いた。


「あの人を知ってるのか?」


「機関ではそこそこの有名人だよ。若くして研究員と戦闘員を兼任していた。三年前、急にいなくなってしまう前は、機関の次代を担う人材として期待されていたし、どの部署からも一目置かれていたよ」


「へぇ」


 流石はアデライト先生だ。

 セレンも小さく何度も頷いている。


「しかしまさか、ハーフエルフだったとはな。よく今まで隠してこれたものだ」


 先生の『千変』のスキルはそれだけすごいのだろう。もちろん先生自身がばれないように立ち回っていたのもあるだろうけど。

 そう考えると、先生を今の窮地に追いやったのは俺なのかもしれない。俺がエリクサーを取りに行くなどと言わなければ、先生は平穏な生活を捨てずに済んだだろう。


 やっぱり俺には、他人の運命を狂わせてしまう力があるのだろうか。


「話はわかった。俺は一応役職を持っているが、トップと繋げるには力不足かもしれん。できる限りのことはしてみるが」


「ああ。それでいい、助かるよ」


「プロジェクト・アルバレスのことも調べてみる。アデライト女史が機関を抜けた原因となれば、個人的にも興味があるしね」


 よかった。


 フェザールがいてくれてマジで助かるぜ。あとはシーラの調子が良くなれば言うことなしだ。

 だが、出しぬけに不穏な雰囲気を察知することになる。


「ロートス」


 隣に座るウィッキーが立ち上がる。


「囲まれてるっす」


 なんだって。俺は周囲を見渡す。


 漆黒のローブの女十数人が、俺達のテーブルを包囲していた。

 いつの間に。話に夢中で気が付かなかったのか。


「ロートス・アルバレス様でいらっしゃいますね」


 ローブの女の内、一人が慇懃な声でそう言った。


「……よく知ってるな」


「あなた様のことはなんでも存じております」


 そして、俺を囲む女達が一斉に膝を屈し、頭を垂れた。


「我らアルバレスの守護隊。あなた様のご帰還を心からお待ちしておりました」


 なんだって?

 俺はウィッキーと顔を合わせる。


「どういうことっすか? これ」


「俺にもさっぱりだ」


 セレンは相変わらずの無表情で、俺の顔をじっと見つめてくる。


「フェザール。これは?」


「なにがなんだか」


 フェザールも知らないとなると、いよいよだな。


「これより我ら守護隊は、ロートス様の指揮下に。姿を消し、影の如く付き従い、お守りいたします。なんなりとご命令を」

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