第156話 俺達の戦いはこれからだ!

 翌朝。


 俺は早速ヘッケラー機関へと出立しようとしていた。


「マスター。お気をつけて」


 里の出口。大きな門の下で、アイリスが荷物を持たせてくれる。


「二人を頼むぞ。アイリス」


「お任せを。この命に代えても、お守りいたしますわ」


 二人というのは、アデライト先生とフィードリッドのことだ。ギルドから狙われている以上、いつ襲われるか分かったものじゃない。

 アイリスの後ろで、先生は眼鏡の位置を直していた。


「私達は聖域との境界に野営することにします。あのあたりなら冒険者達も手を出しにくいでしょうし、いざとなれば聖域に逃げ込むことも出来ます。それに、里の皆様も助けて下さるようですし」


 ふむ。エルフがどこまで役に立ってくれるかはわからないが、いないよりはマシだろう。少なくとも牽制や抑止力にはなるか。

 先生の隣で、フィードリッドが大きな溜息を吐いていた。


「まったく、あのタヌキじじいめ。ワタシとアディを狙うとは、はっきり言ってゴミクズだな。Sランクの話も、最初からすべて嘘だったというわけだ」


「同感だ。あのじじい。次に会ったらぜってーぶん殴る」


「フフ。その意気だぞ婿殿。大切な婚約者を足蹴にされたのだ。冥途に送ってやらねば気が済まんだろう」


 流石に殺すのは抵抗があるが、終身刑でも生温いとは思うぜ。


 さて。


 実を言うと、ヘッケラー機関に行くのは俺一人ではない。

 俺一人だとあまりにも危険だということで、誰も納得してくれなかったのだ。


 同行するメンバーは、ウィッキーとセレンである。

 ウィッキーは機関を裏切った身ではあるが、近くまでは護衛と道案内をしてくれる。


「ウチは絶対にロートスについていくっすよ。これ以上心配をかけられるのはイヤっす」


 とのことだ。


 セレンについては、


「最後まで付き合う」


 とのことだった。

 頭があがらねぇぜ。


「エレノアには何も言わなくていい?」


 首を傾げるセレンに、俺は首肯で答える。


「あいつはあいつでやることがあるだろうからな。エルフに魔法を教わるんだろ? それを邪魔するわけにはいかねーよ」


 当のエレノアは昨夜の宴ではしゃぎすぎたようで、まだ寝ている。朝までアイリスと魔法談義をしていたらしい。アイリスは脳筋だと思うんだが魔法談義なんかできるのかね。


 まぁいい。


 そういうわけで、エレノアには何も告げないでおくのだ。

 今日あたりにはマホさんが迎えに来るんじゃなかろうか。そのあたりの説明はエレノアに任せるさ。


「ここから機関までは馬車で半日ほどっす。休憩なしになるっすけど、大丈夫っすか?」


「ああ。問題ない。最悪、俺には『タイムルーザー』があるしな」


「ウチの『ツクヨミ』を破ったスキルっすか。ウチからしたら、とてもクソスキルなんて思えないっす」


 苦笑しながら、ウィッキーは馬車の扉を開いた。


「ほら、乗るっす。しょーがないから御者はウチがやってあげるっすよ」


「すまんな」


 馬車の運転の仕方なんてまったくわからないから仕方ない。


「ウィッキー。ロートスさんをお願いしますね」


「心配性っすね~先輩は。このウチがついてるんだから問題ないに決まってるっす!」


「万が一ということもありますから」


「……ロートスはウチにとっても大切な人っす。傍を離れないようにするっすよ」


 ウィッキーは少しだけ真剣みを帯びた声で言う。こいつはこいつなりに、覚悟を決めているみたいだ。

 ま、俺の決意には勝てんだろうけどな。


「それじゃ、行ってきます」


「ロートスさん。くれぐれもご用心ください。なによりも命が最優先です。あなたがいなくなってしまったら、私……」


「大丈夫。ちゃんとわかってますって」


 昨夜の一件があったからか、先生は今まで以上に俺を気にかけてくれているようだ。


「婿殿。娘を傷物にした責任はとれよ」


「ちょっとお母さん……!」


 ははは。何を勘違いしているかはわからないが、そこまではやってない。まことに残念ながらね。


「よし」


 俺とセレンは馬車に乗り込む。


「それじゃ、出発っす!」


 颯爽と走り出す馬車。

 皆が、見えなくなるまでずっと見送ってくれる。


 俺の旅は、まだまだ終わらなさそうだ。

 これはまさしくあれだな。


 俺達の戦いはこれからだ! ってやつだな。


 完全に、そういうことだ。

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