第157話 もうちっとだけ続くんじゃ
馬車の中は、しばらく沈黙が続いていた。
俺とセレンの二人きりなものだから、そう話が弾むわけもない。
気まずいってことじゃないんだが、暇であることは否定のしようがないのだ。
「なぁセレン」
退屈に耐えかねた俺の口が、ひとりでに動いてしまう。
開いていた魔導書から顔を上げ、セレンはごく僅か首を傾けた。
「なに」
「ああ、いや」
何を聞きたいんだったかな。
「セレンってさ、従者いないだろ? それって、なんでなんだろうって思ってさ」
じっと見つめてくるセレン。
「お父様が従者は不要って」
「それは聞いたけど、理由はなんなんだ?」
そもそもセレンだっていいとこのお嬢様だろう。魔法学園に通っているということはそういうことだ。俺やエレノアが例外なだけで、大体は貴族の子女や裕福な豪族の子が多い。
セレンもオーリスの姓を持っているから、多分貴族なんだろうな。
「従者に頼るのは弱者の証。それがお父様の考え」
「そりゃまた珍しい」
言わんとすることは分からんでもないが、普通は逆だ。
強者だからこそ優秀な従者を多く従えることができる。それが国民の共通認識であり、文化である。
「私の国では、珍しくない」
「へぇ? セレンって、留学生だったのか」
「そう」
それは驚きだ。
だがよく考えれば、魔法学園も留学生の受け入れくらいはやっているか。王国の最高学府だもんな。
「どこの国から来たんだ?」
「二つお隣。グランオーリス」
「グランオーリス?」
まぁ名前くらいは知っている。国についてはまったく何も知らないけど。
いや、一つだけ知っている。十年ほど前に成立した新興国だということ。王国で名を馳せた冒険者の夫婦が建国したと、一時期話題になっていたのを覚えている。
ん、まてよ?
「グランオーリス? ってことは、セレンは」
まさか。
「お姫様?」
頷くセレン。
「ばれた」
「まじか」
まさか一国の王女だったとは、さしもの俺も驚きを隠せない。
だが俺は態度を変えたりはしないのだ。
地位や身分で人を判断するような人間じゃない。俺はイケメンだからな。少なくとも心は。
「でもどうして留学なんか?」
「S級冒険者になることはパパとママの夢だった。でも、国を興したから無理になった」
「ははぁ。そりゃそうだ」
夢を叶えてから建国すればよかったのに。
そう簡単な話じゃないんだろうけど。
「だから私がその夢を継いだ」
「自分の意思で?」
「そう」
「すごいな」
親想いなことだ。俺とは大違いだな。
「でも、お姫様がお付きもなしに留学なんて、信じられないな」
「我が家の方針」
王家を指して我が家というのはなかなか新鮮だ。
「あと、留学の理由はそれだけじゃないから」
「そうなのか」
魔導書をぱたんと閉じ、窓の外の風景を眺めるセレン。
「お婿さん探し」
「むむ」
「この国の魔法学園には世界中から優秀な人材が集まる。だから、そこで王位を継ぐにふさわしい人を探してこいと言われた」
「なんてこった」
王位継承者を王女の一存で決めて来いってのか。
婿探しならそれこそ目利きの出来る従者が必要だと思うんだが。
「そいつはなかなか……ダイナミズムに溢れた国だな」
「同感」
冒険者夫婦が興したくらいだから、そういう感じなのかもな。
しかし、今のところセレンが俺以外の男と話しているのなんて見たことがない。
大丈夫なのだろうか。
学園に帰ったら、少しは婿探しの方も気にかけてあげることにしよう。
何か手伝えることがあるかもしれないからな。
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