第139話 ガチ戦闘 その2

「幸い、相手も無傷とはいうわけじゃないでやんす。エレノアが活躍してくれているのが大きいでやんすね。『無限の魔力』のおかげで高威力の魔法を連射できるのはすごいでヤンス」


 よかったなエレノア。エルフに褒められているぞ。


 エレノアは前線の火力支援として、フレイムボルト・テンペストを撃ちまくっていた。あいつだからこそできる芸当だ。

 だが、敵もそれをうまく防いでいる。まともに当たるのは十発に一発くらい。それでも無力化には程遠い。やはり遠くから撃つだけじゃだめのか。


「どうするんだ。このままじゃ負けるぞ」


「分かっているナリ」


「副長。ここはあっしらが突撃するしかないでやんす」


「……やはりそうナリか」


 なんだって。


「ちょっと待ってくれ。二人が前に出たら指揮はどうするんだ。みんながバラバラになっちまう」


「ロートス。あんたに任せるでやんす」


 いやおかしいだろ。


 俺が指揮できるとかできないとか以前に、なんでよそ者かつ人間の俺に指揮権を委ねるんだよ。エルフは人間嫌いだろ。今戦っているのも人間だし。一体どういう神経してるんだ。


「あんたは他の人間とは違う。あっしらの姿を見ても邪念を抱かなかったでやんす。エルフの古い預言にある『清き異国の雄』。それはロートス、きっとあんたのことでやんす」


 知らねーわ。


 なんで急にそんな話が出てくるんだ。意味が分からない。話についていけない俺がおかしいのか?


「それじゃあ、後は任せたでやんすよ!」


「ちょっ、待てよ!」


 オーサと副長は待たない。二人は意気揚々と突撃し、前線へと飛び込んだ。


「くそっ……エレノア! 援護だ!」


「うんっ!」


 エレノアのフレイムボルトが間断なく戦場に降り注ぐが、敵が数十人ともなると効果は薄い。魔法障壁的なもので防がれてしまっている。


「やばいぞ。どうしたらいいんだ……!」


 そもそも戦闘の指揮なんかしたことないのに。


 目の前でエルフ達がやられていく。オーサと副長も奮戦していたが、敵に囲まれてピンチになっていた。


 このままじゃエリクサーどころじゃない。俺もエレノアも死んでしまう。

 俺が死ぬのはかまわないが、エレノアはなんとしても生き延びさせなければ。そのためには俺も死ぬわけにはいかない。


 クソが! なんで俺にはチート能力がないんだ! 今こそ必要な時だろう!


 ヘッケラー機関に運命を弄られたせいで、戦う力も奪われたというのか。

 ふざけんなよ。


「ロートス、このままじゃみんなが!」


 わかってるんだエレノア。だけど、俺にはどうすることもできない。


「私も前に出るわ!」


 言うや否や、乙女の極光を纏い、エレノアは前線へと跳躍する。


 うそだろ? 馬鹿か!


 いくらその魔法が強いとはいっても、敵だって尋常じゃない。


「エレノア!」


 俺の叫びも虚しく、エレノアは間もなく敵に囲まれてしまった。


 エレノアは正面の敵を蹴り飛ばすが、そのすぐ背後から剣を振りかぶる男が接近していた。

 すでに前線の味方は二十人を切っており、オーサと副長も目の前の敵の対処で精一杯だ。エレノアを助けてくれる者は誰もいない。


 俺も、助けることはできない。


 くそ。くそくそくそ!

 俺が『無職』なんかじゃなければ!


 嘆いても現実は変わらない。


 無慈悲にも、鋭利な剣はエレノアの脳天目掛けて振り下ろされた。

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