第138話 ガチ戦闘
「何があっても、退いてはくれないんだな?」
俺は最後の望みをかけて、男に問いかける。
「残念だが、百パーセントの確率でありえない。君がエルフの里を救いたいなら、我々を一人残らず殺すしかないな」
まじかよ。それはきつい。
現代日本人的感覚からすれば、戦争なんてまっぴらごめんだ。自分の身を守るためとはいえ、流石に人を殺すことは憚られる。
だがこの世界のルールはまた違う。殺されそうになったら殺せ。それがれっきとした社会通念なのだ。
それはともかく。
「ちなみになんだけどさ。ヘッケラー機関にシーラって人はいるか? 『ツクヨミ』で心を壊されて、療養中らしいんだけど」
「なんだと……?」
それまで飄々としていた男の声色が、一気に剣呑なものに変わった。
「なぜシーラのことを知っている! 貴様……何者だ!」
ああ、この反応はあたりだな。
「よかった。本当みたいだな」
アデライト先生を信用していないわけじゃないが、万が一シーラがいなかったらエリクサーを手に入れても意味ないもんな。
「よかった……よかっただと!」
だが、男は見るからに激怒していた。
「死ねぇッ!」
男は再び攻撃魔法を唱える。
しかし今回は俺にも余裕がある。来ると思っていたからな。
防御陣地の上から飛び降り、エルフ達と合流する。炎は俺の頭上スレスレを通過していった。
「すまん! 説得は失敗だ」
「しょうがないでやんす! 各自応戦! 侵略者を撃滅せよでやんす!」
オーサがぴしゃりと指示をとばす。エルフ達はきびきびとした動きで配置へとついていく。
「エレノア」
「は、はい!」
オーサの呼びかけに、居住まいを正すエレノア。
「得意な魔法とスキルは?」
「え、えっと。得意な攻撃魔法と身体強化魔法。スキルは『無限の魔力』よ」
「でかしたでやんす! あんたは後方から魔法をぶちかまし続けてくれでやんす!」
「わ、わかったわ!」
戦いらしくなってきたな。
全裸の俺にできることはないけども。
ここからは筆舌に尽くしがたい戦いが始まった。
魔法の民であるエルフと、エリート集団のヘッケラー機関の刺客。すごい魔法とスキルの応酬だった。具体的にどうとは言えないくらいのすごさだ。
ほぼ互角の戦いのように思えたが、じわじわとエルフが押されていく。オーサと副長が果敢に指揮を取るが、次第に負傷者が増えて後方に退いていく。
俺も憶えたての治癒魔法で負傷者の対応に追われるが、全然間に合わない。戦闘が始まって十数分経った頃には、エルフの戦力は半分を切っていた。
「まずいナリね。ここままでは防御陣地も破壊されてしまうナリ」
全裸のまま防御陣地の内側で戦いを見守っている俺の隣で、副長が深刻そうにつぶやいた。
「有利なはずの防衛側で、まさか人間ごときに押されるとは……屈辱ナリ」
流石はヘッケラー機関。秘密結社は伊達じゃないってことか。
感心している場合ではない。
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