第134話 万事休す
「あ、あなたは……?」
慌てて俺から離れたエレノアが、幼げなエルフを見る。
「あっしはオーサっていうでやんす! 人間を捕らえたっていうから見にきたでやんすよ。ん~、実に尊いでやんすね!」
「尊い? そうかしら?」
エレノアが俺を見る。
知らん。
俺は咳払いをしてから、考えながら口を開く。
「えっとな、オーサちゃん。俺はロートス。こいつはエレノアっていうんだ。よろしくな」
「ロートスにエレノアでやんすね。よろしくでやんす!」
オーサは無邪気な明るい笑みを咲かせる。ぱっと見サラよりも幼く見えるが、たぶんエルフだからもっと年上なのかもしれない。
ああ、やっぱりそうだ。『イヤーズオールドアナライズ』によれば、オーサは四百五十二歳。まじかよ。
「オーサちゃん。実は俺達から頼みがあるんだが」
「なんでやんす?」
「ここから出してくれないかな?」
オーサは他のエルフに比べて好意的に接してくれている節がある。ちゃんと頼めば解放してくれる可能性はゼロではない。
「それは無理でやんす」
無理だった。
「そこをなんとか!」
「無理なものは無理でやんす。エルフの掟はオリハルコンより固いでやんすよ」
ふざけやがって。
そもそもエルフのくせに語尾にナリとかやんすを付ける時点でどうかしている。まるで納得がいかねぇ。許せねぇんだよ。
けどそんなことを言っても仕方ない。俺は頭をフル回転させる。
「俺達はエルフに危害を加えに来たんじゃない。それは信じてくれるよな?」
「ん~、そうでやんすね。信じる要素もないし、信じない要素もないでやんす。だから捕えておくのが安定でやんす」
「いや、俺達を解放してくれたら、エルフの役に立つことをしよう。それなら解放した方がメリットがあるだろ?」
「ん~?」
頼む。聞き入れてくれ。
「大変だ!」
そんな時、遠くで大きな声が聞こえてきた。危機感を孕んだ声色。
「人間が攻めてきたぞ!」
なんだって?
俺とエレノアは揃って顔を見合わせた。
「ロートス、どういうこと?」
「わからん」
そんな俺達を交互に見比べて、オーサは青い瞳を細くする。
「あんたらの差し金でやんすか?」
「そんなわけないだろ」
「私達は何も知らないわ」
「ん~、それを信じろって方が無理があるでやんすね」
そりゃそうだ。
こんなタイミングで人間が攻めてきたっていうんなら、絶対俺達を疑うに決まってる。誰だってそうする。俺だってそうする。
くそ、どうしてこんなことになっちまうんだ。
万事休すだ。
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