第114話 いちばん重要なこと

 俺達の来訪に気付いた受付嬢が、営業スマイルで立ち上がる。


「ようこそ冒険者ギルドへ。ロートス・アルバレスさんですね。ギルド長とフィードリットさんがお待ちです。奥の第一会議室へどうぞ」


「ああ、どうも」


 会議室か。ギルド長も同席するとなると、やはり話が大きくなっている節があるな。

 そりゃそうか。エルフの秘中の秘であるというエリクサーを手に入れようとしているんだから。


 第一会議室の大扉を開く。蝶番の軋む音。やけに年季が入っている。

 会議室はとにかく広かった。そして席が多い。


 まるで転生前テレビでみた国会中継の会場のようだ。会議室というよりは議場だなこりゃ。


「おお、来たか」


 部屋の一画にいたギルド長が立ち上がる。近くにフィードリットもいた。


 俺達は彼らのもとに近づいていく。


「むむ? アデライト君ではないか。君も来たのかね。ああ、冒険者クラブの引率としてかな?」


 ギルド長が目を丸くしている。


「こんばんはギルド長。本日はクラブ顧問としてではなく、一個人として参りました」


 アデライト先生が丁寧に一礼する。


「おお、なんだお前も王都にいたのかアデライト。これは奇遇だな」


 フィードリットが笑いながら腕を組んだ。


「ええ。随分と久しぶりね、お母さん」


 なんだって?

 聞き間違いかな?


 驚いているのは俺だけじゃない。ギルド長の目はさらに丸くなり、セレンも無表情なりにほんの僅かな変化を見せていた。


 それを察したアデライト先生は、小さく咳払いをすると、フィードリットを掌で指し示す。


「この人は私の母です。驚いたでしょう?」


 うっそだろおい。


 俺は即座にクソスキル『イヤーズオールドアナライズ』を発動した。

 それによるとフィードリットの実年齢は。


「にひゃくごじゅう……なんてこった」


 フィードリットはどう見ても二十代前半にしか見えない。それが実年齢二百五十だと。

 エルフってのは、マジでやばいな。


「わっはっは。驚くようなことか? エルフに娘がいてどこがおかしい」


 フィードリットがそんなことを言っているが、驚いているポイントはそこじゃない。


 アデライト先生が人間ではなく、エルフであることに驚いているのだ。


「ということは先生が『千変』のスキルで姿を変えているのって……」


「そうです」


 先生の耳が光に包まれる。

 次の瞬間には、彼女の耳は尖りながらも少し丸みを帯びたものに変わっていた。エルフの耳とも、人間の耳とも違う。


「何ということじゃ……アデライト君。君は、ハーフエルフじゃったのか」


「……はい」


 アデライト先生が俯く。


「人間からもエルフからも蔑まれる忌み子。それがハーフエルフ。かつてお母さんは人間の男性と恋に落ち、私を産んだのです」


「おおそうだ。そのせいで里から追放されてしまったがな。後悔はしておらんぞ。ワタシが自分で選んだ道だ。ま、あの男もいつの間にかどこぞへと消えてしまったが」


 フィードリットが豪快な笑いをあげる。それは笑い話なのだろうか。

 ちらりと、俺の方に先生の視線が向けられた。


「幻滅しましたか? 私がハーフエルフであることに」


「へ? いや別に」


 なにか問題でもあるのだろうか。

 俺にとっちゃ先生の種族がなんであれあんまり関係がない。


「先生のおっぱいが本物なら、それでオッケーです」


 重要なのは、その一点なのだから。

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