第110話 なんだよ、いるじゃねぇか

「ちょっと待った!」


 そんな時、ホールに女の声が響き渡った。


「ドラゴンを倒しただけでいきなりA級だと? おかしいではないか!」


 ずかずかと近寄ってきたのは、金髪ショートボブの女性だった。長いまつ毛に縁取られた吊り目がちな碧眼が、強い視線で俺に向けられる。


「そもそもこんな覇気のない小僧がドラゴンを倒せるとも思えん。何かの間違いではないのか!」


 大声をあげる女性はなかなかにきわどい格好をしている。緑色のミニスカートからは真っ白い太ももが伸びているし、貧乳だが大きく胸元の開いた上着は、あまりにも扇情的である。まるで痴女だ。そんな服装で冒険者なんかできるのかよ。


 とはいえ、彼女を言っていることは実に正しい。実際、俺何もしてねーもん。


「しかしのぅ……これはギルドの正式な決定じゃ。異議を唱えるなら、然るべき手続きを踏んでもらおうかの」


「なにを馬鹿な! いいかギルド長。このワタシですらB級なのだ。二十年も冒険者をやって、多くの危険種を討伐したワタシがだ! たかがドラゴン二体でA級というのは、明らかにおかしいだろう!」


 そうだそうだ。もっと言ってやれ。そして俺より目立て。その分俺の影が薄くなるだろう。できればA級も取り下げさせてくれ。


「ったく。まーた始まったよ……」


「今度は新人に噛みつくのかー? いい加減懲りろよ」


「あいついっつも面倒くせぇんだよな。冒険者の品格がなんだとかよぉ」


 周りからそんな声が聞こえてくる。どうやらこの女性、冒険者の中でも鼻つまみ者のようだな。


「外野は黙っていろ! ザコどもが!」


 おお。言い返してる。


「貴様らのような惰弱な者達がいるから、冒険者はいつまで経っても貴族連中に見下されたままなのだ! 貴族などより良質なスキルを持っている一流がいるにもかかわらずな!」


 そこでギルド長が女性を手で制す。


「……それ以上は口を慎むのじゃ、フィードリット。おぬしの実績は認めるが、我々の決定に口出しできる器でも、貴族のあり方を糾弾する立場でもない」


「ぐっ……!」


 フィードリットと呼ばれた女性は綺麗な歯を剥き出しにして悔しそうにしている。なにやってんの? もっと頑張れよ。


「ん? あれ?」


 そこで俺は、あることに気付く。


 フィードリットの耳だ。

 長くとがった耳は、どう見ても人間のものじゃない。そう、まるでエルフのような。


「え、まじで!」


 思わず驚きの声をあげてしまった。ギルド長とフィードリットが同時に俺を見る。


 俺は期待の目をフィードリットに向けた。


「もしかしてあんた、エルフか?」


 質問を受け、彼女は柳眉を捻じ曲げる。


「見ればわかるだろう。他に何に見えるというのだ」


 なんだ、いるじゃねぇか。人間社会に暮らすエルフがよ。

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