第95話 勝てるよ
甘かった。
生クリームよりも甘ったるい俺の考えが、思いもよらぬ事態を引き起こしてしまった。
いま俺達の目の前には、アフリカゾウよりも一回り大きな巨大なドラゴンの威容があった。
セレンもサラも俺も。ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなっている。
どうしてこうなった。
途中までは順調だったんだ。月明かりの下、『ちょっとした光』を発動してナハトモスクを採集していた。時折出現するラットマウスを蹴飛ばしながら、持ってきた袋一杯に薬草が集まった頃、異変は起こった。
なんと突如として頭上からこのドラゴンが急降下してきたのだ。そして、俺達を睨みつけ、袋一杯だったナハトモスクを奪われ、すべて食べられてしまった。
一体、どういうことなんだ。
「もしかして、ファイアフラワードラゴンじゃ……」
サラが慄然とした声で呟く。
「なんだそれ」
俺の疑問には、セレンが答えてくれた。
「別名ハナクイ竜。植物の中で一番魔力のある部位が花。だから、魔力を求めて花を食べるモンスターも多い。ファイアフラワードラゴンは雑食だけど、個体によっては限りなく草食に近いものもいると聞く。でも」
「でも?」
「基本的にドラゴンは昼行性。夜に行動することはない。それに王都の周りにドラゴンの巣はない。定期的に上級冒険者が駆逐している。だから、本来この地域にはいないはずのモンスター」
まじかよ。
「でも草食ってことは……俺達を喰ったりしないよな? さっき、めっちゃ花食ってたし」
「ご主人様……残念ながら、ドラゴンは極めて好戦的なモンスターです。同族以外の生き物を見つけたら、殺すまで追いかけてくる習性があるんです」
「は? ふざけんな」
マジでキレそうだわ。自分が食物連鎖の頂点に君臨しているとでも思っているのか。
あまりにも傍若無人な習性だ。
だしぬけに、ドラゴンは咆哮を放った。びりびりと空気が震え、大地が震動する。俺達は耳を押さえて踏ん張る。咆哮だけで吹き飛ばされてしまいそうな衝撃だった。
「ご主人様……どうしますか?」
「どうもこうも。逃げるしかないだろ」
「無理。逃げられない。ドラゴンは飛行できる」
無理かどうかはやってみないとわからんだろ。
というか、サラもセレンも、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。
ドラゴンだぞ? もっと慌てふためくもんだろ。
「戦う」
セレンが平坦な声で決意を表明した。
「馬鹿言え。こんなやつと」
「S級を目指すなら、いつかは乗り越えないといけない壁。竜狩りは、一流の証だから」
そうだとしても、今じゃないだろ。冗談抜きで死んじまう。
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