第88話 ちゃんとスキルと職業は確認しようね
「えっと、セレンは攻撃魔法を専攻するのか? なんか意外だな」
「どういう意味」
「いや、あんまり戦いをするようなタイプには見えないからさ」
どっちかというと机に向かっているような研究肌に見える。
一言に魔法と言っても色々だ。攻撃魔法、補助魔法、医療魔法、生活魔法、付与魔法。すぐ思い付くだけでもこれくらいの種類がある。学問的にはもっと細分化されているだろう。
その中であえて攻撃魔法を選ぶのだから、相応の理由があるに違いない。
セレンの翡翠のような瞳に俺の間抜けな顔が映り込んでいる。気まずい。
「ちなみにー」
アデライト先生の説明は続く。
「一般教養の授業はすべて必修科目となりますからご注意くださいね。本日午後からの授業はすべて一般教養ですので、選択科目の登録は明日までにお願いします。急な話ですけど、多くの人は入学する前にほとんど決めてきているでしょうから、大丈夫ですよね?」
決めてねぇんだなこれが。
「さて、みなさん。このエリートクラスは総勢八十一名。一人一人それぞれ目指すことは違うでしょうけれど、同じ学び舎で学ぶ仲間達です。必修科目をはじめ、様々なシーンでグループを組む必要が出てきます。なので本日中に、二名から六名の班を作って頂きます。あ、従者の方は人数に数えませんよ?」
まじか。班を組むとか、そんな話聞いてないぞ。そりゃそうか。だって入学のしおり読んでないもんな。
「この班はとりあえずのものですから、あまり神経質になる必要はありません。申請すれば後からメンバーの加入や脱退ができます。正当な理由があれば、申請はちゃんと受諾されますから」
それって翻せば、いい加減な理由では申請が突っぱねられるってことだ。やはり真剣に考えないと駄目じゃねぇか。
「履修登録と併せて、班の登録もお願いしますね。では、これでオリエンテーションを終わります。午後の授業まではまだ時間がありますから、班決めの時間にお使いください。先生は職員室に戻りますから、あとは皆さんでよしなにどうぞ」
そう残して、アデライト先生は講義室を後にした。
去り際に俺に流し目を送ったのは勘違いじゃないだろう。確実に俺を見ていた。あの人の好意が本物かどうか、これから見極めることになるのかな。そんなことしたくねぇなぁ。
アデライト先生の言葉を信じて、本気で好かれていると思おう。その方が気持ちがいい。
「さて、どうすっかなー」
正直俺には知り合いという知り合いがいない。周りを見渡すと、もともと友人知人だったグループもあるようだ。そういうところはすぐに班をつくっていた。
まぁ、そもそも魔法学園に来るような奴らは貴族に限らずそれなりの家の生まれが多い。商家の息子とか、学者の娘とか、高級軍人の子弟とかな。それくらいの財力がないと、入学できないのだ。だから、家同士のつながりとかもあるのだろう。
俺やエレノアのようなただの平民は珍しいのだ。俺達がただの平民かどうかは異論のあるところが、少なくとも世間的にはそうだからな。そんな俺と班を組んでくれるような酔狂なやつがいるのかね。
と、思っていたのだが。
「ちょっと君。班が決まってないのなら僕と組んでくれないかな?」
そんな声が俺にかかった。
「え、俺か?」
「ああ、そうだ。君がメダルを提出したのを見ていた。さぞかしすごいスキルと職業の持ち主なんだろう。上を目指すなら、やっぱりそういう人と組みたいからね」
「はぁ」
こいつ、俺が『無職』って知ったらどんな反応するんだろうな。
「ちょっと待った! 彼は俺の班に入ってもらいたいと考えている! 抜け駆けはよせ!」
暑苦しい声が近づいてきた。
「待ちなさいよ! その人はあたし達の班に入るの! あたし達の方が先に目をつけてたんだから!」
女子グループも寄ってきた。
「なんだよ君たちは! あとから来てワーワー騒がないでよ!」
「お前こそなんだ! 調子に乗るな! 別に早い者勝ちというわけでもないだろう!」
「あんたらうるさいわね黙りなさい! 彼だってきっと女子と一緒の方がうれしいはずよ!」
にわかに騒がしくなってきた。どうなってるんだこりゃ。
「待つでやんす。彼はオイラの班に入るでやんす」
「否。拙者の班に入るで候」
「イイエ。ワタシト、クムノガ、サイゼント、オモワレマス」
「ちゃうちゃう。ワイかてロートス氏と組みたいがな。当然やで」
どんどん集まってきたな。俺、大人気すぎる。
「あわわ……なんだか大変なことになってきちゃいました」
サラがあわあわし始める。
わかるぞ。ここまで混沌としてしまっては、俺もどうしていいかわからん。
もはや俺には、どうすることも出来ないのか……。
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