第45話 煽るな
突然傍らに現れたアイリスに、サラとエレノアが同時に目をやった。
「あの~」
アイリスが手をあげて、にこにこしながら口を開く。
「あなたがお探しなのは、たぶん、わたくしのことですわ」
「ええっ?」
驚いたのはサラだ。そりゃそうだろう。見知らぬ女性が助け舟を出してくれたのだから。
「あなたが……?」
エレノアはじっとアイリスを見上げる。
「でも、あの時のローブを着てないわ」
「それはですね。サラちゃんが今着ているローブを借りたのです。あの時は、正体を隠していましたから」
「どうしてそんなことを?」
エレノアの問いに、アイリスがぴんと人差し指を立てる。
「その方がかっこいいじゃないですか」
お、いいぞ。その通りだ。正体を隠して人を助ける。最高にクールだぜ。俺は。
エレノアとマホさんはぽかーんとしている。あの二人にはこのかっこよさが理解できないようだ。
「と、ともかく。あなたにはお礼を言いたかったの。助けてもらえなかったら、あの化け物スライムに食べられちゃうところだったし……」
目の前にそのスライムがいるんですけどね。真実を知っている俺からすればなんか怖い話みたいだな。
「とんでもありませんわ。危機に瀕した方を助けるのは当然です。あなたの使う貧弱な魔法じゃ倒せなかったでしょうし」
「ぐっ」
エレノアの顔が引きつった。
あれ。なんだ。アイリスのやつ、なんだか毒舌じゃないか?
「おいあんた。いくらなんでもそんな言い方はねぇだろ」
マホさんが眉を吊り上げる。
アイリスは怪訝そうに首を傾げた。
「こいつだって全力で戦ったんだ。貶めるようなことは言うな」
「ですが事実、全然効きませんでしたし……せっかく限りない魔力を持っていらっしゃるのに、まったくといっていいほどそれを活かせていません」
「てめぇ……!」
「マホさんやめて」
アイリスに掴みかかろうとしたマホさんを、エレノアが素早く制した。
「すこしばかり強いからって好き勝手言いやがって――」
「やめてったら!」
なんと。エレノアが声を荒げるなんて珍しいこともある。
「この人の言う通りよ。私はまだまだ未熟。スキルが凄くても、肝心の魔法がからっきしじゃ、意味がないわ」
「エレノア……」
当の本人がそう言っているんだ。マホさんもこれ以上何も言えないだろう。
エレノアは凛とした表情でアイリスを見つめる。
「あなたの名前を教えてくれる?」
「わたくしはアイリスと申します。よい名だと思いませんか?」
両手を重ねて心底嬉しそうなアイリス。名付けた俺が恥ずかしくなるからやめて。
「ええ……いい名前ね。私はエレノア。アインアッカ村のエレノアよ」
肯定してくれるのはいいがエレノア。なぜそんなに凛々しい表情をしているのか。
「アイリス。あなたがどこのクラスに配属されるかはわからない。きっと上位のクラスなんでしょうね。わたしと同じかもしれないし、違うかもしれない。けど、これだけは覚えておいて」
アイリスめがけ、ぴしっと指をさすエレノア。
「一か月後のクラス対抗戦。絶対あなたに勝つわ」
これ以上ないほどにはっきりと言い切った。
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