第42話 その名はアイリス
「まさかモンスターに人の心を教えられるなんてな。お前ほんとにモンスターか?」
「モンスターにも心はあります。心というのは、人も獣人もモンスターも、そんなに大きく変わらないものなんですよ」
「なるほどな」
確かにそうかもしれない。
「マスター。ひとつお願いがあります」
「なんだ?」
「わたくしに、名前をお与えください」
そうだ。スライムは種族であって名前じゃない。
俺は彼女の名付け親になるのか。
「よし、お前はアイリスだ」
俺が転生前、好きだった花の名前だ。この身も心も美しい少女にふさわしいと思う。
「アイリス……素敵な響き」
名を抱きしめるように囁いて、彼女は嬉しそうに笑った。
「マスター。ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
俺は彼女と目を合わせる。
「アイリス」
「はい」
「呼んでみただけだ」
「ふふっ。マスターったら」
アイリスの笑顔に癒される。
俺の落ち込んだ心は幾分かマシになっていた。
「これからはわたしくも、サラちゃんと一緒にマスターの従者として頑張りますから」
「ああ。そうだな。頼むぞ」
だけどその前に。
「服を用意しないとな……」
「あ」
アイリスは全裸のままだ。
スライムの姿では服を着ていなかったのだから当然だ。彼女に合う服などないから、買いに行かなければならない。
「一旦スライムに戻れるか?」
「できますけれど……またあの狭いビンに押し込められるのは……」
そんなに嫌だったのか。それは悪いことをした。
「でも全裸の美少女を連れてなんかいたら学園中の噂になっちまう。これ以上目立ちたくはないんだよ。分かってくれ」
「わかりました。それがマスターの信念なのですね」
「すまんな」
「とんでもありませんわ」
アイリスの体がぴかっと光る。
次の瞬間には、俺の足下でスライムがぷるぷると震えていた。
「ありがとう。服を買ったらずっと人の姿でいていいからな」
そっちの方が俺も嬉しいしな。
アイリスはぷるっと震えると、ビンの中に収まってくれる。
さて、多少気も紛れた。
サラは今頃ランチの最中だろう。今のうちにアイリスの服を買いに行くか。
手持ちは少ないが、まあ何とかなるだろう。
それにしても、アデライト先生がスキルで容姿を偽っていたなんてな。
なぜそんなことをしていたのか。
あの魅力的なおっぱいも偽りだったのだろうか。
もしそうなら、許せん。
純情な男心を弄んだ罪。いつか償ってもらわないとな。
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