第36話 また幻術なのか

 俺達が洞窟の入り口に到着した頃には、メダルを手に帰路につく新入生が多くいた。

 そりゃそうだ。俺が二つのダンジョンをクリアしている間に、みんなが試験を終えていないはずがない。


 本当に時間を無駄にしてしまった。

 『タイムルーザー』を使った方がまだましな時間の潰し方だったな。


 嘆いていても仕方ない。さっさと洞窟をクリアしちまおう。


 俺はサラを伴い、洞窟へと踏み入った。


「暗いですね……」


 ダンジョン内は半端なく暗かった。完全なる闇だ。一切の光が存在しない。


「マジで何も見えないな。みんなどうやって進んだんだ?」


「たぶん、光源魔法を使ったんでしょうね。簡単な生活魔法ですから、ここに入るような人たちはみんな覚えているはずです」


「それは遠回しに俺をディスってんのか?」


「とんでもありませんー。『無職』だからって卑屈になるのやめてくださいー」


 暗いからって言いたい放題だな。もしやサラ、自分が奴隷であることを忘れてしまったのではあるまいな。

 別にいいけど。


「とりあえず視界を確保しなきゃ動けないな」


 俺はクソスキル『ちょっとした光』を発動する。

 すると、俺の頭の上にちょっとした光の玉が生まれ、周囲を仄かに照らした。


「わぁ。なんかかわいいですねそれ」


「かわいくはないだろ」


 転生前に使っていたスマホのライトくらいの明るさだが、まぁなんとかなるだろう。


 俺達はちょっとした光を頼りに洞窟を進むが、内部は複雑に入り組んでいて行けども行けどもゴールが見えてこない。


「んー。なんだかおかしいですね」


 サラが顎を押さえる。


「アデライト先生は、弱いモンスターがたくさんいるって言ってましたのに、モンスターなんて一匹も見当たりませんし」


「他の新入生が狩り尽くしたんじゃ?」


「それにしては、死骸とかもないですし」


「たしかに」


「もしかして……」


 サラは周りに人いないことを確認してからフードを外した。モフモフの耳がピンと立っている。目を閉じ、聴覚に集中しているようだ。


「何かわかるか?」


「そうですね……えっと、たぶんなんですけど」


 サラは目を開き、岩の天井を見上げる。


「ボク達、すでにボスモンスターの術中にはまっちゃってます」


「なんだと?」


 一体どういうことだ。ボスはおろか、モンスターもいないってのに。


「放浪の洞窟は、たぶん洞窟というより洞穴なんです。その証拠に、音にあんまり奥行きがありません」


「つまり?」


「入口の時点で、ゴールってことですよ。戦闘力の低い、幻惑系のモンスターなんでしょうね」


 なんてこった。そんなもん対処のしようがねぇ。

 俺は魔法なんて一つも使えないんだぞ。


「ここはボクに任せてください。まだそんなに役に立ってませんからね。ここらでボクがご主人様のお役に立てるってことをアピールしておかないと」


 おお。そいつは助かる。

 頼むぜ。サラ。

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