第8話 奴隷を買うのだ

 魔法学園のある王都ブランドンまでは、大体徒歩で半月かかる。

 エレノアたちは馬車で行ったので、もっと短くなるだろう。追いつく心配はなさそうだ。


 今は季節の変わり目である。冬から春へ。そんな時期だ。

 この世界にも、というよりこの国にも四季がある。気候的にも、ほとんど日本と変わらない感じだ。そうなると桜の木を懐かしくも感じるが、残念ながらこの世界に桜はないようだった。


「ここか……」


 途中に立ち寄ったリッバンループという街で、俺は奴隷商を訪れていた。

 奴隷なんて俺には縁のないものだと思っていたが、どうやらそういうわけにもいかなくなった。

 というのも、魔法学園の生徒にはみんな従者がいる。でも『無職』の俺にはそんな人はいない。従者がいないまま入学しては、間違いなく目立っちまう。それだけは避けたいんだ。

 だから俺は、金で買える奴隷を従者に仕立て上げようとしてるってわけだ。


「いらっしゃい。本日はどのような奴隷をご所望で?」


 奴隷商人のおっさんは、みるからに悪人顔だった。まぁ、奴隷を取り扱うような奴は大体こんなものだろう。買おうとしてる俺も人のことは言えないけどな。


「予算は五十万エーンだ。それで買える奴隷はいるか?」


「ごじゅう……ううむ。それくらいですと――」


 おっさんは、周囲の檻を見渡している。整然と並べられた檻には、首輪で繋がれた老若男女達が生気のない顔で捕らえられていた。

 ちなみに五十万エーンというのは、日本円に換算して約五十万円くらいの価値がある。とてもわかりやすい。


「こちらなんかどうでしょう。獣人マルデヒット族の娘です」


「獣人か……」


 おっさんが提案してきたのは十歳くらいの女の子だ。赤茶色の髪の毛に白い肌。頭には猫のようなモフモフの耳があり、腰の下あたりからはこれまたモフモフの長い尻尾が生えていた。


「この子なら五十万エーンで買えるのか?」


「そうですねぇ。少し訳ありでして……ワタクシとしても早く売ってしまいたいのです。なので、特別に三十万エーンでかまいませんよ」


「それは助かる。買わせてもらうよ」


 即断即決。俺はこの子を買うことにした。


「まいどあり」


 おっさんは、腰の鍵束を使い、檻の扉を開いた。


「おら、出ろ。お前の新しいご主人様だ。ご挨拶しろ」


 俺の前に引っ張り出された少女は、元気のない表情のまま土下座をする。


「……サラといいます。ご主人様、これからよろしくお願いします」


 なんの希望も感じられない声だった。なんか可哀想だ。

 奴隷として売られ、幼くして辛い思いをしてきたのだろう。俺は正直、かなり心を痛めていた。

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