第6話 両親との家族会議

 帰宅一番。家族会議が始まった。


 真剣な顔の両親に呼ばれた時には、俺も覚悟を決めたね。

 不安でいっぱいになりながらも、毅然とした態度で居間のテーブルについていた。


「ロートス。まずは十三歳の誕生日、改めておめでとう。ここまで元気に育ってくれて、父さんも嬉しい」


 父の言葉がどこまで本音かはわからない。けれど、その目は確かに親の慈愛に満ちていた。


「クソスキルだからって、母さん達はずっとあなたの味方よロートス。最弱劣等職の『無職』でもいいの。私達の自慢の息子であることは間違いないもの」


 そういってくれるのはありがたい。でも『無職』の息子を一体どこに自慢するってんだ。そんなことをされても、俺が惨めになるだけだ。


「父さん達な、考えたんだ。ロートス。お前は、スキルに頼らない生き方も選べるんじゃないかってな」


「スキルに、頼らない?」


 そんなことは不可能だ。

 この世界のスキルとやらはあまりにも便利すぎる。


 元の世界じゃ死ぬほど努力して身に付けられるような技術を、ただ神に授けられただけで習得できる。そんな世界で、まともに努力するような奴は珍しい。ほぼすべての人間がスキルを活かした生活を営んでいる。両親だってそうだ。


「そりゃ、それができればいいとは思うけどさ」


 あくまで理想だ。努力ではスキルに勝てない。これが現実なのだから。


「魔法学園に行きなさい、ロートス。学費も生活費も用意したから」


「はぁ? どういうことだよ。魔法学園ってのは、エレノアのようなエリート中のエリートが行くところだろう。将来に希望のない俺が行ったところで意味ないって」


 というか、そんなとこに『無職』の俺がいたら目立つに決まっている。目立つのは死んでも嫌なんだよ。


「いいや。もう決めたことだ」


「決めたって……俺の意思は?」


「そんなものはない。クソスキルしか持たん『無職』のくせに偉そうなことを言うな!」


 言っていることおかしいだろ。

 大切な息子じゃないのかよ。意思を尊重する素振りすら見せないじゃないか。


「とにかくもう決まったことだ。お前は来月から魔法学園に通うことになる。お隣のエレノアちゃんと一緒なんだ。嬉しいだろう」


「そういう問題じゃ……!」


「もう黙りなさいロートス。あなたは『無職』なのよ! これ以上親を困らせないで!」


 母がヒステリー気味に声を荒げた。


 俺はもう何も言えなかった。

 この世界ではこれが普通なのだ。クソスキルの人間は親からも軽視される。

 魔法学園に行かされるのも、体のいい厄介払いだ。


 心配していた展開になった。ある意味予想通りとも言えるけどな。


「条件がある」


「なんだと?」


 動じた様子もなく言った俺の反応に、父は額に青筋を浮かせた。


「言ってみろバカ息子。下らん事だったら父さんの『ソードブレイカー』で真っ二つにしてやるぞ」


 息子に言うセリフじゃねぇだろ。

 まぁいい。


「エレノアとは別で入学する。あいつには俺が魔法学園に行くことは黙っておいてくれ」


「どうして? ロートスあなた、エレノアちゃんとあんなに仲いいのに? やっぱり神スキルの持ち主と一緒じゃ自尊心が傷付いて死にたくなるからなの?」


 母もけっこうな毒を吐いてくるじゃないか。いい加減にしろ。


「そんなところさ」


 本当のところ、あいつと一緒にいて目立つのが嫌だからだ。俺は『無職』らしく学園の片隅でひっそり魔法を学ぶことにするよ。

 それが一番いい生き方だ。


「そうか。わかった。他でもない息子の頼みだ。エレノアちゃんには何も言わないでおこう」


「ありがとう、父さん」


「お前のような『無職』が一緒じゃ、あの子も可哀想だしな」


「一言余計だよ」


 おかしな会話に聞こえるかもしれないが、この世界じゃこれが常識的なのだ。

 そういう文化なのだと受け入れるしかない。


 俺はもう受け入れた。

 だから大丈夫。


 こうして俺は、魔法学園へ入学する運びとなったのだった。

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