第4話 幼馴染のエレノア

 俺には幼馴染がいる。

 同じ年に生まれたお隣の女の子だ。


「ロートス……大丈夫?」


 鑑定の儀の後、俺は村の片隅にある大岩の上で黄昏ていた。授けられたのがクソスキルで、職業は『無職』である。流石にこの世界の不条理を嘆かずにはいられなかった。

 ここまで俺を育ててくれた両親にも合わせる顔がない。それに、単純に怖かった。この世界では、クソスキルは不要だと言って我が子を捨てる親もいるくらいなのだ。俺は両親を信用してはいるが、どうにもその可能性を払拭しきれない。


 そんな俺を心配してきてくれたのだろう。

 幼馴染のエレノアが、大岩の下で俺を見上げていた。


 青みがかった長い髪。同色の大きな瞳。女の子の方が成長期の到来が早いせいか、おれよりも少しだけ背が高い。しなやかな四肢は女性らしく丸みを帯び始めており、以前はぺったんこだった胸も仄かに膨らみ始めている。間違いなく村一番の美少女だ。

 長いまつ毛に縁取られた両目が、俺の情けない表情を映していた。


「平気だよ。ショックだけど……まぁ仕方ないさ。人生こういうこともある」


「なに言ってるのよ。強がりばっかり。全然平気そうな顔してないじゃない」


 エレノアはスカートの裾を気にしながら、大岩に上ってくる。


「気をつけろよ。ほら」


「ありがと」


 俺が差し出した手を取って岩の上に立ったエレノアは、夕焼けに染まった空を清々しい笑みで見据えた。


「ここから見える景色はいつも綺麗ね。季節も時間も関係なく」


「ああ、そうだな。眺めてると、ちょっとは気分も和らぐ」


「スキルがいいものじゃなかったからって、そんなふてくされなくてもいいじゃない。そんなことどうだっていいのよ。スキルや職業がどうだろうと、ロートスはロートスだもん。そうでしょ?」


 それは他人事だから言えるセリフだ。自分に同じ不運が降りかかった時、果たして彼女は同じことを言えるのだろうか。


「もういいんだ。俺のことは放っておいてくれ。俺と一緒にいると、お前まで村八分にされちまうぞ」


「あら、心配してくれてるの?」


 白い整った歯を見せて、彼女は笑う。改めて見ると、やっぱりとんでもない美少女である。美美美少女と言ってもいいくらいだ。


「おあいにくさま。あなたと一緒にいることで、私の価値が変わったりはしないわ。なんたって私のスキルは『無限の魔力』。職業は『大魔導士』なのよ」


 ああ、そうだ。


 ちょうど一ヵ月前。彼女が鑑定の儀で得た超絶神スキル。

 この世界でも三本の指に入る伝説的な職業でもある。

 エレノアの将来は約束されたも同然だ。まず間違いなく、彼女はいずれ世界に名を轟かせる英雄になることだろう。


 それに比べて俺は。

 溜息。

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