ガチャ廃人、ガチャの世界でシークレットを当てる

村凛太

第1話 英雄召喚ガチャ

 カーテンによって外からの光は閉ざされクーラーにより程よく冷えた部屋のベッドの上で、俺、月城悠翔つきしろゆうとはスマホ片手にゲームをしていた。


 16歳の高校2年生の俺だが、今は8月で夏休み真っ只中なため学校は無く部屋に引きこもってゲーム三昧な日々を送っていた。


 ゲームと言っても俺がやるのは据え置きタイプではなくスマホのゲームだけだった。

 なんでスマホのゲームしかやらないかって?



 それは俺が1番好きなのはガチャを引くことだからだ!



 ガチャを引くときのワクワク感とドキドキ感。それに目当てのキャラを当てた時の高揚感や達成感。ガチャを引くことほど楽しいものは他にない。なので生活はガチャが基準で成り立っている。


 イベントがある時は削れる時間は全て削ってイベント限定ガチャを引くことに全身全霊をかける。学校があろうがご飯があろうが関係ない。睡眠だって最低限まで削っている。学校の課題なんてもってのほかだ。



 ゲームでイベントが来ているのに課題をだす教師が悪い!



 まあ、こんなこと口に出したら面倒くさいことになってイベントを回れなくなるので適当に言い訳して切り抜けてはいるが内心ではずっとそう思っていた。俺は青春の全てをガチャを引くことにかけているため課題なんかで邪魔されるわけにはいかないのだ。


 そして今もガチャを引くための石集めで周回中だったりする。ガチャに課金するためにバイトをしているがバイトが無い日は今日みたいにひたすら自分の部屋にこもって周回している。



 よし。あと1つダンジョンをクリアすれば10連ガチャが引けるようになる。もう少しでガチャが引けるとなると何かうずうずしてきてしまう。


 もう少しの辛抱だ。押さえろ、俺。


「ここを…こうして…それで…」


 ついゲームの操作をしていると呟いてしまった。スマホの画面を操作して画面上のキャラを動かしていく。そしてついに…。


「クリア! これで10連引けるぞ!」


 スマホの画面にダンジョンをクリアした報酬として石を獲得したという表示が出る。ちなみに石とは俺が今やっているゲーム内で色々なことに使えるアイテムだ。キャラクターの保有数の拡張やスタミナの回復などもできるが俺はガチャにしか石は使わない。


 画面の右上を見ると石の数が1000個となっている。石100個で1回ガチャが引けるため1000個だと10回ガチャが引ける。それを確認してガチャのマークをタップしてガチャのページが画面に表示された。


 お願いします…。いいキャラがでますように…。


 そう祈りながら俺はガチャを引くというボタンを人差し指で押した。


 すると画面が切り替わりガチャの演出が始まる。BGMが流れ演出が進んでいく。ここで確定演出が出ることもあるが今回はそれは無く演出は終わり今回のガチャで当たったキャラが表示されていく。

 1体、2体と順に表示されていきレアなキャラがでないまま残りの1体となってしまった。


 頼む!当たってくれ!


 指先に俺の全てをかけて画面をタップする。すると最後の1体が画面に表示された。


 …爆死だ。まだ給料日じゃないから課金もできないし…。


 期待とは裏腹にガチャの結果は悲惨なものとなってしまい、しばらくの間放心状態となってしまう。

 外れてしまったとはいえ何回もガチャを引いていればこういうことはよくある。認めたくはないが割と慣れてはいる。

 こんな時は他のゲームでガチャを引いて気晴らしするのが一番だ。

 俺はスマホのホームボタンを押してゲーム画面を閉じてホーム画面を表示させた。その中の一つのフォルダをタップすると画面上にたくさんのゲームのアイコンが表示される。


 俺ってこんなにゲームしてたんだな。


 ついそんな風に思ってしまう。

 しかし今は夏休みということもあってゲームをする時間はたくさんある。それが災いしてか今すぐにガチャを引けそうなゲームは無かった…。

 もう全部のゲームで貰えそうな石はすべて貰ってガチャを引いてしまっている。あとはログインボーナスか課金するかくらいだがログインボーナスは明日にならないと貰えないし課金するお金も今は手元にない。


 どうしよう…。まあこういう時はまた新しいゲームでガチャを引くか。


 そう考えた俺はインターネットを開いてガチャが引ける面白そうなアプリを検索してみた。 

 画面には検索結果が表示されてゲームに関しての色々な記事が出てきた。上から一通り目を通していくがどのゲームも大体やったことあるがガチャが良くなかったか現在進行形でやっているゲームかのどっちかだった。


 記事を見ては検索結果の画面に戻るというのを繰り返しながら徐々に画面を下にスクロールしていく。

 するとある記事の見出しに目が留まった。


「あなたは今のガチャでは満足していませんか?人生の全てをガチャに費やしてみませんか?」


 口に出して読んでみたものの怪しさ満点だ。今の俺の生活でも十分ガチャに全てを費やしていると言えるだろうが、そんな俺でも楽しめるのだろうか。記事の見出しに好奇心が即座に満たされてしまった。


 とりあえず1回見てみようと思ってそのサイトを開いてみた。

 また記事が表示されるのかと思っていたら、何やらブラウザゲームのような雰囲気の画面が表示された。


 なにやら承諾を求められているようだった。

 とりあえず何が書いてあるのかを読んでみるとするか。


『ここから先はガチャを愛しガチャに全てを捧げる覚悟がある人しか進むことはできません。この先にはガチャの世界が待っています。一度進んでしまったらガチャを忘れたくても忘れる事はできないでしょう。あなたはガチャにあなた自身の全てを懸けられますか?』


 なんか重い感じの言い方をしているが結局のところこれは俺にとっては天国のような世界なのではないか?

 もしそうなら迷うことは何もない。願ったり叶ったりというやつだろう。


 そう考えた俺は文章の下に表示された『はい』というボタンを押してみた。

 画面にはロード中という文字が表示される。

 一体どんなゲームが待っているのだろう。

 期待に胸を膨らませながら早くゲームが始まるのをじっと待つ。



 ロード中という文字の下にロードの進行度をします数字が表示されておりどんどん100パーセントに近づいていく。

 そして100パーセントになった瞬間。


 画面が物凄い光を発しつい目をつむってしまう。

 さすがに眩しすぎてこのまま画面を見続けていたら失明してしまいそうなレベルだった。

 目をつむってもまだ眩しいため顔を画面から背けてやっと眩しさから解放された。


 なんであんなに光ってるんだ? ていうか俺のスマホってあんなに眩しい光出せたんだ。


 なぜか自分のスマホに感嘆してしまった。


 て、そんなこと考えてる場合じゃなかった。早くガチャを引きたいんだ。

 そろそろ眩しさも収まっただろうし画面を見てみるか。


 そう思い恐る恐る目を開いてみる。

 すると目に前に広がる光景は想像を遥かに超えていた。


 え? なんで? 俺自分の部屋にいたじゃん。てかここどこだよ。


 俺の目の前に広がっていたのは辺り一帯が真っ暗な何もない空間だった。

 状況が整理できずにキョロキョロと辺りを見渡すが何もない。それにさっきまで確かに手に持っていたはずのスマホも消えている。


 これはもしかしてリアルすぎるゲームの中なのか?

 きっとそうだろう。リアルすぎてゲームの中にいると勘違いしてしまっているんだ。

 だからスマホも無いのだろう。

 スマホのゲームの中にスマホは持ち込めないもんな。


 そう解釈したはいいものの…。

 何も無さ過ぎて何をしてらいいかさっぱり分からない。チュートリアルとか何もなしですか?

 難易度高すぎやしませんかね…。


 そんな風に途方に暮れていた俺の目の前に突如として3つの箱のような物が現れた。

 店にある様なガチャガチャ見たいな見た目をしており青、赤、黄の3種類のガチャがある感じだ。


 これを引けばいいのか?


 そう思い真ん中にある黄色のガチャに手を伸ばしてみたのだが、何やら注意書きのようなものが書いてあるのに気が付いた。

 そこにはこう書いてあった。


『3つのガチャの内から1つしか引くことはできません。このガチャはそこそこの確率でかなり強力な物が排出されます』


 なんだよこのテキトーな説明。一応他の2つの説明を見てみるか。


赤『3つのガチャの内から1つしか引くことはできません。このガチャはかなりの確率でそこそ強力な物が排出されます』

青『3つのガチャの内から1つしか引くことはできません。このガチャはかなり低い確率で物凄く強力な物が排出されます』


 なるほど。つまり当たりやすさを取るか当たりの大きさを取るかということか。

 それなら答えは一択だ。

 そう思い俺は迷わずに手を伸ばした。


 そして俺が選んだガチャ、青のガチャに触れた瞬間、ガチャが光だした。

 また眩しくなるのかよ。

 そう思って目をつむろうとしたが、すぐに光は収まり目の前にあったはずの3つのガチャは消えていた。


 そしてその代わりなのかは分からないが俺の右手には赤い宝石のような物が握られていた。

 ルビーのように見えなくもないがこれはいったい何なんだ?

 全く見当がつかない…。


 この後どうしたらいいかも分からないのでとりあえずガチャで当たったであろう赤い石を見てみることにした。

 角度を変えて色々と見てみたが何の変哲もないただの赤い石だった。

 頭の上にかざしてみたりもしたがやはり変化はなかった。


 ていうか今気が付いたけど俺歩けないじゃん。

 よくわからない空間にいて身動きが取れないわけではないが歩く動作をしてみても前に進む感覚が無い。

 この暗さは虚無ってことかな。


 まあどうせまた何かが光出すんだろ。今度はこの石か?


 今までのと言ってもつい数分の出来事だが、そこから推測するに何かが光だしてストーリーが進展するのだろう。

 ワンパターンではあるがまあそれも仕方ないだろう。

 だって何かが光ってストーリーが進まないと俺一生ここにいることになって飢え死にしちゃうし…。


 頼む! 光ってくれ!


 そう願った時だった。

 また光だしたのだ。俺の予想通りだ。

 予想通りのはずだった…、しかし。


 なんで俺の体が光ってんの!?


 今度は俺の体が光だしたのだ。さすがに俺自身が光りだすとは予想してなかったよ。

 しかし俺を包んでいる?光はさらに強くなっていき辺りの暗闇を照らしていく。


 俺の光に当てられてかは分からないが徐々に暗闇が晴れていってる気がする。

 気がするというか実際に外の景色が見え始めている。

 俺の足元には石でできた床がありその上には魔法陣のような物が描かれていた。


 さらに外の景色は広がっていき最初は足元しか見えなかったが、やがて暗闇は跡形もなく消えて何やら奇妙な部屋が現れた。


 薄暗い部屋に石の床、そしてその上に描かれた魔法陣。さらには魔法陣を囲うように1メートルほどの柱が立っておりその上には火が灯っている。

 まるで怪しい儀式をしているようだ。


 その怪しさを助長させるうようにローブを着た老人が俺に近づいてきた。


「お待ちしておりました。英雄様」


 英雄様? 誰が?


 そんな疑問を抱いてしまうくらいには目の前の老人が何を言ってるのか理解できなかった。しかしそれに追い打ちを駆けるように周りにいたローブを着た人たちも声を上げ始めた。


「今年も成功だ」

「これでこの街もまた強くなるぞ」

「今回はどんな英雄なんだろう」


 なんかめっちゃ期待されてるようだった。


 長かったような短かったような出来事を追えたと思ったら今度は知らない人たちに出迎えられるって…。

 まあゲームの主人公ならこんなこともあるか。

 俺はガチャを引くためにゲームを始めたんだからこれも何かのストーリーなのだろう。

 そうなるとゲームを始める前に見た文言が気になってしまう。


 『ガチャに全てを懸ける』的なこと書いてあったよな。


 これから起こることが楽しみすぎて心が躍ってしまう。早くストーリー進んでほしい!

 これからの展開につい期待してしまう。

 このゲーム、もしかして当たりなのかもしれない。

 俺はそう思わずにはいられなかった。



 ていうか、早くガチャ引きたい。

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