第11話 捕らえられたメック

 捕らえた少女が兵士詰め所で暴れた、という報告を聞いたクレマンは、まず部下の報告の意味がすぐに分からなかった。

 少女一人に戦争のプロであるデュナミスがやられたのである。しかも、相手は手枷をつけたままで、やられたのは二十人だ。

 もう一度同じ報告を聞いたクレマンは、内容を理解するとともに激しい怒りを覚える。

「上の牢にでもぶちこんでおけッ! この無能どもがッ!」

 クレマンの指示を聞いた新兵は、怒鳴られたことで反射的に背筋を伸ばすと、慌てて執務室を後にした。


 二十人など、この砦の医務室に入り切る人数ではない。「女だと思って油断したら二十人の部下が倒された」なんて本国に知られたら、いい笑い物である。


 クレマンは部屋を出ると、砦の中庭へと向かう。

 中庭にあるヴァンクールは、クレマンの機体である。特徴である二本の角はもちろんだが、その右肩には血痕のような斑点がペイントされていた。これは、クレマンがメックを撃破した数を表しており、その総数は八つであった。


 そして、その隣には捕らえた白いメックが立っている。周囲には砦の技術者が集まり、メックを興味深そうに調べていた。

「これはこれは、クレマン卿」

 彼の姿を見つけた技術主任のコンスタンが声を掛けてきた。

 コンスタンの頭髪には白いものが混じった髪をだらしなく伸ばしていた。見た目こそ清潔感のない男であるが、技術者としては非常に優秀で、特にメックにおいてはレディスト王国でも指折りの技師である。


「捕らえたメックは、どうだ?」

 クレマンの言葉を聞いた瞬間、待っていたとばかりにコンスタンは目を輝かせる。

「ええ、このメックは素晴らしいですよ……動力はヴリル・ジェネレーターを使っていますが、我々の物よりも小型です」

「ほう、ではこれもヴリル・エネルギーで動くのか」

「それも背部に二基も搭載されています。動かせないので出力までは分かりませんが」

 そう言われたクレマンは、白いメックの胸部に目を向ける。そこでは若い技術者がなんとかハッチを開けようと悪戦苦闘している。

「開かないのか?」

「もしかしたら、搭乗者にしか開けられないのかもしれません」

「メックのスラヴァーで無理矢理開けられないのか?」

 それを聞いたコンスタンは慌てふためく。

「い、いけません……! それでは内部まで損傷してしてしまうかもしれません! このメックの内部は無傷のまま調べなくてはならないのです!」

 肩で息をするほど、コンスタンは興奮している。

「ええい、分かった分かった……!」

「このメックは……いや、これは私の勘ですが……もしかすると、今後のメック開発を根本から変えてしまうものかもしれません。装甲が厚くなりすぎる傾向にあるメックの姿だけでなく、戦術そのものさえ影響を及ぼすような……革命的なデザインなのですッ……!」

 コンスタンに火がついてしまったようである。こうなってしまうと彼はしばらく止まらないことを、クレマンは経験として知っていた。

「シールドに傷付いていますから、おそらく左腕は損傷しているでしょう。詳しく調べてみなければはっきりしませんが、動きが悪くなっているかもしれません。

 それから、このスラヴァーも我が国のものとは違っています。そもそもスラヴァーは各国で若干の差がありまして……」


 どうやら、コンスタンの話はまだまだ続くようだ。

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