夏の詰め合わせ

梔子

夏の詰め合わせ

希(のぞみ)……主人公、中学2年生。

夏休みに入ってすぐ、大きな病気にかかっている事が分かり、手術のため入院している。

幸(さち)……希の姉、大学一年生。

地元から離れて暮らしている。明るく優しい性格で、希と仲が良い。


※回想シーンの希の名前の後に付いている"y"は、"young"を表すものです。過去のシーンですので、その当時の年齢で演じてみてください。


※2人の場合、幸の役の方が母役も兼ねるとやりやすいかと思います。


※途中のお祭りのシーンで出てくるお兄さんはのセリフは、大体こんなことを言っているのではないかというイメージです。

男性の方に演じていただいてもOKです。



以下台本



希(語り)

「私の夏休みは過ぎ去ってしまったみたいです。まだ始まったばかりなのだけれど、終わってしまったようなもの。お祭りにも海にもキャンプにも行けない。

白い天井と薬の匂いと余分に広くて静かなこの空間が、私の夏休みになってしまいました。」


希「はぁ……」


希(語り)

「病気だと分かったのは丁度夏休みが始まった日。急に熱が出て、熱中症だと思って病院にかかったらこんなことに。

お医者さんいわく、手術をすれば治る、らしいけれど成功率は60パーセント。どうにも微妙で安心できない数字だった。

幸い解熱剤と痛み止めでそんなに辛い思いはしていないのだけれど、夏の予定が全部潰れた上に手術をしても無事でいられるか分からないこの状況には心から沈み込んでいた。」


希「何でこうなっちゃったかなぁ……」

母「希。」

希「あれ、お母さん……って、何その大きい箱!」

母「これね、お姉ちゃんから希にって。私も中身については詳しくは聞いてないんだけど、食べ物ではないから安心して。」

希「聞いてないって、何入ってるか分かんないじゃん。」

母「まあまあ、あの子のことだしそんな酷いもの入ってないでしょ。」

希「2人して適当なこと言って。私病人なんだよ?」

母「そうね、お姉ちゃんも気にかけてたわよ。すぐに会いに来れなくってごめんって。」

希「それはいいけどさ……」

母「もうすぐこっちに帰ってくる頃だと思うんだけど、これ届いてからは連絡来てないのよね。……手術、明日なのにね。」

希「……うん。」

母「ごめんごめん。怖いのは希なのに……きっと大丈夫よ。先生の腕は確かみたいだから、ね。」

希「……うん。」

母「……なんか他に、困ったことない?」

希「大丈夫。」

母「じゃあ、今日は帰るわね。明日の手術の前にまた会いに来るから。」

希「……ありがとう。」

母「それじゃあ、ね。」

希「また明日。」


希(語り)

「お母さんが置いていったのは、お姉ちゃんから送られてきたらしい大きな箱。見た目はただのダンボール箱だし、そんなに重くもない。」


希「ん?……夏の詰め合わせ?」


希(語り)

「品名には『夏の詰め合わせ』と書いてあり、あとは割れ物注意の所に丸が打ってあるだけだった。春休み以来会っていないお姉ちゃんからの贈り物ならと、私は、箱を開けてみることにした。」


希「……!」


希(語り)

「中には、見覚えのあるものばかりが入っていた。風鈴にお祭りで取ったスーパーボール。お姉ちゃんが小学生の頃の夏休みの日記の宿題や、日に焼けた白いリボンの付いた麦わら帽子。どれを見ても懐かしい思い出が蘇ってくる。」


希(語り)

「入っているもの一つ一つを手に取って見ていると、何だか……だんだん……ねむたくなっ……て…………」


幸「のん、見て!綺麗!」

希「わぁ、いい音だね!」


希(語り)

「気が付くとそこには今より少し前の姿をした、私とお姉ちゃんの姿があった。場所は近所のお寺。風鈴祭りが行われている日の風景だった。」


幸「私達も風鈴吊るしてこようよ!」

希y「うん!」

幸「この紙にお願いごと書けるんだって。何書く?」

希y「えー、お姉ちゃんは?」

幸「んーとねぇ……書くまで秘密だよ。」

希y「えー。」

幸「で、のんはどうするの?スイッチ欲しい?」

希y「違うもん!(書きながら)皆、健康で、仲良く、暮らせますようにっ!」

幸「何それ。いい子じゃん。」

希y「いい子だもん。」

幸「そだね。じゃーあ、私は……」


(間)


幸「よっし、じゃあ吊るしてこようか。」

希y「うん!」


希(語り)

「吊るされたお姉ちゃんの短冊には、「東京の大学に受かりますように」、と小さな文字で書いてあった。」


希「秘密にして行っちゃったの、ちょっと寂しかったな……」


希(語り)

「また視界が霞んだと思うと、次には賑やかな祭囃子が聞こえてきた。私達姉妹はお祭りの雑踏の中に居た。」


幸「チョコバナナ一口いる?」

希y「うん。」

幸「はい。」

希y「あーん。(食べて)おいしい。」

幸「んね。」

希y「次は何する?」

幸「のんのお小遣いあといくらだっけ?」

希y「200円」

幸「じゃあもうあと1個やったら帰ろっか。」

希y「んー……うん。」

幸「何がいい?水風船か、ワニ吊りか、射的かぁ……」

希y「あ、スーパーボール!」

幸「あ、懐かしいなぁ。」

希y「これにする。」

幸「お金も足りるし、よし、やってみよっか。お兄さん、1回分お願いします!」


(間)


幸「慎重にだよ。」

希y「分かってるよぉ。」

幸「今!あっ、やっぱダメ!お、いっぱい来るよ。ほら構えて!」

希y「もうお姉ちゃんうるさい!……えいっ!(ボールを掬う)」

幸「やった、もう1回くらいいけるんじゃない?」

希y「うん……えいっ(ボールを取る)」

幸「上手いじゃん!もう1回。」

希y「え、できるかな……っえい!(ボールは掬えたがあみが破れる。)」

幸「あー……惜しい。でも4つも!あの、これって持って帰っていいんですよね?」

(お兄さん「いいぜ。袋に入れるからな。」

幸「ありがとうございます!」

(お兄さん「てか2人ともかわいいな。」)

幸「えっ、かわいい?そんなそんな。」

(お兄さん「2つおまけしてやるから1つずつ選びな!」)

幸「おまけしてくれるんですか?のん、この中から好きなの1個選んでいいってさ。」

希y「ほんと?じゃあねぇ……この青くてキラキラなやつ!」

(お兄さん「これだな。ほいっと、おまち!」)

幸・希y「ありがとうございます!」

幸「じゃあ帰ろっか。」

希y「楽しかった!」

幸「私も!」

(希・幸、笑い合う。)


(間)


希「はっ……お姉ちゃんの部屋だ。」


幸「うーん……」


希「お姉ちゃん、ちっちゃい。まだ……小学生?」

(ノック音)

希y「おねーたんあーそぼ!」

幸「うーん、待って。今ピンチなの。」

希y「ぴんちー?」

幸「大変ってこと。」

希y「なんで大変なの?」

幸「夏休みの日記の宿題、昨日書き忘れちゃってさぁ。昨日、何してたっけ……」

希y「おねえたんおばーちゃんみたいだね!」

幸「うるさいなぁもう。えー……どうしよう……」

希y「昨日はー、アイス買ったじゃん。」

幸「んー?あ!そうじゃん。駄菓子屋さん行ったんだ!」

希y「で、おねーたんラムネ買うのか、アイス買うのかで迷ってのんいっぱい待ってたよ。」

幸「ごめんごめん。で、あれだ。私アイス当たったんだった。なんで忘れてたんだろ……」

希y「その後雨だったからじゃない?」

幸「あー!傘もってなかったから雨宿りしたんだった!」

希y「うん。のん、またお母さんのおむかえ待った。」

幸「だからごめんって。アイスの当たり棒あげるから許して。」

希y「やったぁ!」

幸「でも、これで何とか書けそうだなぁ……1日くらい短くってもいっか。」

希y「ぴんちじゃなくなった?」

幸「うん、ありがと。これ書いたら遊べるから、公園行く準備しといて。」

希y「わーい!ボールとなわとび持ってくる!」


希「あの棒、結局交換したっけ……?してないかもなぁ。私も忘れんぼだ。」


(間)


幸「綺麗……」


希「わぁ……これって……去年行ったひまわり畑。」


幸「圧巻だね。」

希y「こんないっぱい咲いてるの初めてみたよ。」

幸「私も。絵の中にいるみたい。」

希y「ずっとここにいたいなぁ。」

幸「ずっと?」

希y「うん、ずっと。ずっと皆でこんな綺麗な景色が見られたらって思ったの。」

幸「……そうだね。」


幸「ねえ、写真撮ろっか。」

希y「自撮り?」

幸「ううん。今日はねぇ……(取り出す間)カメラ持ってきたの。」

希y「いつのまに買ったの!?」

幸「うん。カメラ女子ってよくない?」

希y「いいけど。」

幸「じゃ、のん、そこ立って。」

希y「私だけ撮るの?」

幸「いいじゃん。かわいい妹の姿カメラに収めておきたいの!」

希y「何それ。」

幸「いいから、ほら、撮るよ!」

希y「……ここでいい?」

幸「いい、けど……なんか足りないな。小道具とかあるといいかも。」


(幸、帽子を脱ぐ。)


幸「はい、これ。胸の前で持ってみて。」

希y「ん……こう?」

幸「そんで、笑って。よし、いいよ。いくよ!はい、チーズ。」


(ここでスクショボタン押して音出します!)


希「はっ……!」


希「夢見てたのかな……」


希(語り)

「私はまたお姉ちゃんの帽子を手に取ってみた。お日様とお姉ちゃんの匂いがしそうな麦わら帽子……その下に、白い封筒が潜んでいるのに気が付いた。」


希「なんだろこれ……(封筒開ける)あっ。」


希(語り)

「中に入っていたのは、ひまわり畑で撮ってもらった私が写った写真だった。写真の中には、ぎこちない笑顔の私が鮮やかなひまわり畑に囲まれて立っていた。」


希「……戻りたいよ。会いたい……」


(ノック音)


希「あ、はい。」

幸「お待たせ。」

希「お姉ちゃん……!」

幸「調子はどうだい?」

希「……来ないと思ってた。」

幸「のんのピンチに私が駆けつけないとでも?」

希「もう……」

幸「あっ、それ届いてたんだ。良かったぁ。」

希「うん、全部見たよ。ありがと。」

幸「懐かしの品々はいかがでしたか?」

希「懐かしって、この写真とか去年のだけどね。」

幸「そうね。でも、懐かしくない?」

希「うん……また行きたいなぁ。」

幸「行けるよ。大丈夫。」

希「…………うん。」

幸「明日、だっけ?」

希「そう、明日。」

幸「怖い?」

希「……怖いけど、今はあんまり怖くないかもしれない。」

幸「あら、強いね。」

希「うん……(小声)お姉ちゃんと会えたし。」

幸「えっ?」

希「んーん。また来年夏を楽しみたいなって、これから先の良い事を考えたらあんまり怖くないなって思って。」

幸「なになに?ポジティブじゃん。どしたの?もっと沈みこんでるかと思ったのに。」

希「ぜーんぶ誰かさんのおかげなんだけどなぁ。」

幸「へへ、照れるなぁ。」


(間)


希「私に勇気をくれた『夏の詰め合わせ』。来年は、私が贈ってみようかな。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏の詰め合わせ 梔子 @rikka_1221

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ