第43話 永久肉製造機の完成

 それから数日が過ぎた。銀さんが料理を作っている中、その部屋の中には仲良く試食する三人の姿があった。アリシア、エリス、プヨの三人である。


 大きな肉を口へと運ぶエリス。エリスの口には大きすぎる肉をエリスが噛むと、その肉は部厚かったにもかかわらず、あっさりと切れエリスの口に収まってしまう。


 何を隠そう今エリスが食べているお肉こそが、最上級豚肉でありプヨの肉である。その柔らかさは子供のエリスでも簡単に噛み切れる程なのだ。


「凄い、凄く美味しい」


 エリスは口一杯に頬張った肉を飲み込み、そう言い喜んでいた。それを嬉しそうに眺めるプヨは、


「ソウダロウ、ソウダロウ」


と、腕を組み誇らしげに頷くプヨ。美味しいと言われ上機嫌であるプヨ。


「アリシア、オマエモ、ハヤクエ。ウマイゾ」

「あっ、はい」


 プヨに急かされ肉を食べ始めるアリシア。最初こそ抵抗のあったものの、この数日食べ続けた事で、既にプヨを食べる事に抵抗を感じなく成りつつあった。だがアリシアを攻める事は出来ないであろう。それ程までにプヨの肉は絶品なのだ。


 プヨが美味しそうに食べる二人を嬉しそうに見ていると、


「出来たぞ。これも試食してくれ」


 銀さんがそう言い新たな料理をテーブルへと置いた。プヨは首を傾げながら不思議そうにテーブルの上の料理を眺める。


「コレハ、ナンダ?」

「唐揚げと言って、鳥を油で揚げた物だ」


 訪ねられた銀さんがそう答えると、プヨはその大きな手で唐揚げを摘まむ。


「ぷぷ」


 銀さんが口を抑えて笑いを堪えていた。それを見たプヨは、


「ドウシタンダ、ギン」

「いやなに、お前が持つと唐揚げが小さく見えるのが可笑しくてな」

「ソウナノカ?」

「ああ」


 巨大なオークであるプヨが唐揚げを持つと、とても小さく見えアンバランスな光景だった。


 プヨは銀さんの言ってることが分からず、首を傾げながらも唐揚げを口へと放り込んだ。


「ンン? カワッタクイモノ、ダガ、ウマイ。オレノニクニハ、オヨバンガナ」

「ははは、言ってろ。アリシアとエリスも食べてみてくれ」


 銀さんが二人にも唐揚げを勧めると、二人共唐揚げを口へと運んだ。サクッという食感でジュワワと肉汁が出てくると言う、この世界には存在しない食べ物に二人は驚きの表情を浮べた。


「美味しい! こんなの初めて食べました」

「うんうん、ジュワワって」


 二人は初めて食べる唐揚げに夢中になっている。


 そんな二人を隣で見ていたプヨは自分以外が美味しいと言われている事が面白くなかった。プヨはこの短期間で食品としての自覚を持つまでに成長していた。既に自分が美味しいと理解しており、自分が美味しいという事にプライドを持つまでに至っていた。


 故に、自分以外の食品が美味しいと騒がれると、ジェラシーを感じずにはいられなかったのだ。プヨは不機嫌さをあらわにし、


「フン、オレニクラベレバ、タイシタコトハナイ」


 そう言いながら、唐揚げを次々と口へと放り込んでいた。


 そんなプヨが可笑しかったのだろう、アリシアはクスりと笑い、


「プヨさんのお肉の方が美味しいですよ。ただこれも美味しいんですよ。プヨさんもさっきからずっと食べてるでしょ? 勝ち負けじゃないんですよ、美味しい物はどっちも美味しいんですよ」

「フン」


 アリシアが機嫌を悪くしたプヨを説得するが、プヨは聞く耳を持たずそっぽを向いた。


 そっぽを向いたプヨを気遣いエリスが、


「プヨは美味しいよ。本当だよ」


と、声を掛けるが、プヨは黙り納得いかないと言った様子だ。


 そんな三人のやり取りを見ていた銀さんは(おいおい、仲間とか言ってなかったか? 慣れって怖えな)数日前、銀さんはプヨをさばいていて非難された事を思い出し、本人を含め三人がプヨを食品だと認識している今の状況に、人の適応能力の高さに驚くと共に恐怖を感じる銀さんだった。


 銀さんはそんな事を感じつつも、口を開いた。


「まあまあ、他にもあるから食ってくれ」


 そう言いテーブルに次の料理を置く銀さん。


 三人の視線がテーブルに置かれた料理に集まる。初めて見る料理を不思議そうに見ている。


「これは? 何なんですか?」


 最初に口を開いたのはアリシアだった。


「ニクデハ、ナイヨウダ」

「こ、小麦?」


 プヨとエリスもこの料理が何なのか考えている様だが、何なのか理解できないでいた。


「小麦も使ってはいるな。これはコロッケと言うんだ。まあ、食ってみろ」


 三人は銀さんに言われるままコロッケを取り、口へと運んだ。


「んーッ! サクサクのほくほくです!おいし~」

「コレハ、ウマイ。イヤ、オレノニクニハ、オチルガ」

「ほくほくです」


 初めて食べるコロッケを美味しそうに食べる三人を、銀さんは嬉しそうに見ていた。


 この時の銀さんは自分の料理を美味しそうに食べる者を見て、嬉しいと思う気持ちもあった。だがそれ以上に、地球の料理の味がこの世界の人間にも合うのかと心配していた事が、三人の様子から問題なさそうと判断できた、安堵からの喜びが強かった。


 安心した銀さんはふと窓から差し込む夕日に気づき、


「おお、もうこんな時間か。アリシアとエリス、買い出しを頼む」


 銀さんはそう言うと近くにあった羽ペンを取り、紙に必要な物を書いてアリシアに渡した。


「では、行ってきます」

「行ってきます」


 アリシアがそう言い一礼するとそれを見たエリスも一礼し、部屋を出て行った。


 部屋に残った銀さんとプヨ。先に口を開いたのは銀さんだった。


「どうだプヨ、人間も悪くはないだろ?」


 連れて来られた当初、プヨは人間を愚かで脆弱な者と見下していた。そんなプヨがここ数日、アリシアやエリスと楽しく過ごしていたのを見ていた銀さんが尋ねると、


「ワルクハナイナ」


 プヨが悪くないなと言ったのが嬉しかったのだろう、銀さんは笑みを浮べながら言う。


「そうか、それはよかった。これからもよろしくな」

「マカシトケ」


 プヨは腕を組みよい笑みを浮かべ、そう返すのだった。


 この時、本当の意味でプヨが仲間になった瞬間だった。この後、プヨは仲間たちの為に自分の肉を提供し続ける事になる。本当の意味で永久肉製造機の完成の瞬間でもあった。

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