第30話 ただの虐待にしか見えない

 直人たちが目にした光景は、一匹のスケルトンが100を超えるスケルトンたちを指揮し、複数のゴリラ型モンスターたちを追い回す姿だった。


 ゴリラ型のモンスターはゴリラーテと言い、ゴリラによく似ていて前かがみなのだが、それでもミノタウロスより身長が大きい。


 ゴリラーテは大きいだけではなく、強いモンスターなのだが、遥かに劣るはずのスケルトンたちによって追い回されていた。


 その勢いは尋常ではない。数による有利さを活かしながらの連携とその狂気的な攻撃性だろう。


 連携攻撃で休む暇も与えない攻撃。隙を見つけては飛びつき、しがみつき攻撃を開始しする。それに気を取られようものなら、次から次に飛びつきしがみつき攻撃をする。それはエサに群がるアリの様である。


 だが少々スケルトンがしがみついた程度で止まるゴリラーテではない。だがそんなのはスケルトンたちも理解しており、彼らの狙いは頭だ。頭にしがみつく事が狙いで誰か一匹がたどり着くと目を潰すのだ。


 そこからはアッと言う間である。スケルトンが津波の様に押し寄せて来て、纏わりつき動けなくしての滅多刺しである。その中にも工夫があり、彼らスケルトンは体がスカスカである為しがみついている場所であっても骨の隙間から敵を衝く事ができるのだ。


 他にも数人の人の姿が見える。それはカイたちだった。


 カイ一人が随分と先行していて周りのゴリラーテが逃げているのに、大きめの二匹のゴリラーテがカイと戦っている。その姿は仲間の逃げる時間を稼いでいる様にも見える。


 それは人間に例えると、村が襲われ女、子供の非戦闘員を逃がす為に、逞しい男達が戦っている様な光景だろう。カイはそんなゴリラーテたちを笑みを浮べ襲い掛かっていた。


 見る者次第ではどちらが悪役か分からないような状態だ。


 ではGさんはどうかと言うと、こちらも酷い。攻撃して弱らせたゴリラーテを双子の子供に倒せと叫んでいる。弱っているとは言え双子たちの戦える相手ではなく、必死に双子が逃げ回ると言う状況だ。それは訓練ではなく、ただの虐待にしか見えない。


 そんな状況で双子に攻撃が当たりそうになると、赤の軍服を身に纏った槍を持った女性が割って入り倒してしまう。その女性は紫の綺麗な髪をなびさせている。そうクラリッサである。


 彼女は礼装である軍服は常に持ち歩く習慣があるらしく、アーマーのボックスに入れていたのだ。流石にスタイル丸わかりであるボディースーツで異世界を歩きたくないらしく、出会ったあの日以降は軍服を着ている。


 クラリッサがゴリラーテを倒してしまうと、Gさんはクラリッサにそれでは修行にならないと文句を言っては、また新しくゴリラーテを弱らせ双子に用意するGさん。


 それに対しクラリッサはまだ早いのでないかと、このままでは先に死んでしまうと訴えている様だがGさんは聞く耳を持たず、平行線のままである。困ったクラリッサがテルさんはどう思いますかと振る。


 振られたテルは戦いながらも諦めた様な様子で苦笑いを浮かべながら、Gさんだから仕方ない、と言ったような内容を呟いているテル。


 それは狩りと言うよりは虐殺で、モンスターと言えど、命を奪っているのにあまりに不真面目な態度である。人によっては良くは思わないであろうこの状況を見られ直人は思う。


(最悪だ、狩りの様子を見られてしまった!てか、何で移動してるんだ? 狩ったモンスターの素材を運搬するんじゃなかったのか?)


 本来の予定では狩り過ぎたモンスターの素材を、三度に分けて運ぶと言う手筈になっており、既に二度の運搬を終えていた。二度目の運搬の時にギルド職員に素材の確認に時間が掛かると言われ、カイたちは先に戻って素材を積んで置くと言い戻ったはずなのだ。


「派手だよね、しかもずいぶん増えてるし」


と言い楽しそうに見ているローゼ。対してシンシアと言うと目の前の光景を信じられないと言う様な様子で、ポカーンとしている。シンシアは直人の視線に気が付くと、


「えーと、救援の必要はなさそうですね。あはは」


 呆れた様子を誤魔化すために必死に言葉を絞り出したのだろうが、誤魔化しきれていないシンシアを見て直人は申しわけない気持ちになると同時に、怒りが込み上げてきて走り出す直人。


 走り出した直人はGさんたちの元にたどり着き怒鳴る。


「お前たち何してんだよ! 運搬はどうしたんだよ?」


 直人がそう言うと先行して離れていたカイが、急いで戻ってきて、


「う、運搬中だぞ! ほら」


 そう言いカイは後方を指さす。カイが示した先にはギルドで借りた馬車が二台止まり、その周りを数体のスケルトンが護衛している。直人がそれを見ると、


「なぁ」


と言い同意を求めるカイ。このカイの同意を求める意味は、「俺は運搬してるだろ? だからおれは悪くないだろう、なあなあ?」と言う事でありそれに気づいている直人が怒った表情のまま白い目でカイを見ると、


「ちげぇって、ちゃんと運搬してたんだぜ。そしたらあのゴリラが出て来て、Gさんが弟子の修行になるって言いだしてよぉ、俺は止めたんだぜ。そうだろGさん?」


 Gさんはカイに言われると少し焦った様子を見せ、


「どうじゃったかのぉー? よくおぼえておらんのぉ~」

「おいおい、ボケた振りしてんじゃねえよ!」

「ボケたとは失礼じゃぞカイ! 頭はしっかりしとるわ」

「じゃあ覚えているだろ!」

「じゃから忘れたと言うとるじゃろが!」


と言い合い始める二人。


 いつもは仲間に振り回されることの多い直人。普段仲間に怒ることが少ないのだが、直人が怒る事を仲間たちは苦手としている。これは普段怒らない人が怒ると怖いという事と、普段あまり怒らないから慣れてないという事もあるのだろう。


 そんな訳でお互い罪を擦り付けている二人。平行線で進むやり取りに終止符を打つべくテルに振るカイ。


「テル、お前覚えているだろ! Gさんだよな」


 カイがそう言うとGさんは間を置かずに、


「わしは言うとらんじゃろぉー? そうじゃ、そうじゃろテル」


 二人は尋ねる様に言っているがその目は鋭い。そんな二人に詰め寄られ、


「ど、どうだったっスかね? 俺もよく覚えてないッスね~」


と言い、とぼけるテル。そんな様子に苛立ちを見せる直人にクラリッサが、


「直人、そんなことはいいからGさんを止めてくれ、ノアとロキが死んじゃうから!」


 そう言いクラリッサが必死に訴えると、直人は双子の方を見る。ノアとロキは何も口にしないが、その目が訴えていた。助けて下さい、死んじゃいますと。


 それを感じ取った直人は、仕方がないかと考える。本来であればもう少し自重しる様に厳しく言いたいところだったが、今であればGさんも大人しく意見を聞くだろうと判断した直人は、


「修行はいいですけど、もう少し常識的にしてください。大事な弟子なんでしょ」

「ん~、分かったわい。優しくすればええんじゃろ、優しくすれば」


 直人の予想どうり、今の状況では流石のGさんも一瞬迷ったものの、断りきれずに納得してくれた。すると直人は保険代わりに、


「カイ、お前も頼むぞ。俺がいない時に、Gさんがおかしな事をしそうになったら、ちゃんと止めてくれよ。」

「お、おう、任しとけよ。今回はちょっと忘れてただけだ、次は任しとけって!」


 怒っていた直人に頼まれ、怒りを鎮める絶好のチャンスと見たカイは、二つ返事で答えた。


 それを聞いていたGさんは、わしはおかしな事なぞしとらんぞ、と言いたげな表情を浮かべたが何も言わずに黙っていた。


「じゃあ、狩りはここらで辞めて、素材を運ぶぞ」


 直人がそう言うと、カイとGさんは驚いた表情をして、


「おいおい、まだ狩りの途中だぜ。ここまで戦って、はい、そうですかとは帰してはくれねえだろ」

「そうじゃそうじゃ、わしらはええが、モンスターたちが納得いかんじゃろう」


 二人がこのまま返してはくれないと主張すると、直人は呆れた表情で二人を見ながらモンスターの方を顎で指し示す。


 カイとGさんがゴリラーテの方を見ると、カイたちが止まった事をチャンスと思ったのだろう。全力で逃げ出していた。


「……」

「と、言う事だ。このゴリラの素材も乗せてさっさと帰ろうぜ」


 直人たちがゴリラーテの死骸を集めようとすると、大きな雄叫びが森に響く。


 今まで戦っていたゴリラーテの雄叫びに似ているが、大きさや威圧感は全くの別物で直人たちはゴリラーテたちが逃げて行った方に振り返る。


 振り返り、何もいないと思った、次の瞬間、上から巨大なゴリラが降って来た。

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