第19話 店を始めたい!
無事に調理道具を買い終えた直人たちは、Gさんの待つ武器屋へと向かった。
武器屋に着く頃には日が傾き始め、辺りは暗くなり始めていた。店に入るとGさんとジャックの二人が武器を眺めていた。直人たちが入ってきた事に気づくとGさんは嬉しそうに話し掛ける。
「なんじゃ遅かったのぉ。武器ならもう出来とるぞ。そこのテーブルの上じゃ」
Gさんが指さすテーブルの上には武器が数本置かれていた。その種類はロングソードと細身の直剣が1つずつにダガーと刺身包丁が2つずつであった。
Gさんが武器について直人たちに説明を始めた。この武器はミノタウロスの大剣を溶かした金属で作られていた。これは武器屋にあまり良い素材がなかった為に宿に置いてあった大剣をGさんが独断で持ち出して素材にしたのだった。
カイにロングソード、テルにダガー2本、銀さんに刺身包丁2本で、直人には護身用として細身の直剣だった。ちなみにGさんは日本刀と脇差の二本を自分の為に作っていた。
作られた武器はどれもが素晴らしい物だった。カイは武器を手に取り眺めながら、
「いい武器だな。……Gさんいい仕事してるぜ。ありがとな」
「ふははっ、であろう。武器とは命を預けるものじゃからな。手は抜かんよ」
「確かにいい包丁だ。ありがとよGさん」
「ホントにいい武器っスね。でもよくこれ程の武器を短時間で作れたっスね?」
「ほれ、そこは異世界よ。簡単に作れてしまってのぉ、ついつい全員分作ってしまったわ」
テルの質問にGさんが答えるのを聞いていたジャックは素早くつっ込んだ。
「いやいや、普通あんな事できませんよ。Gさんが可笑しいんですよ」
ジャックの話では、Gさんの鍛冶技術は高度なもので、その辺りの職人では相手にならないレベルであるとのことだ。そんな訳でジャックは弟子入りしていた。Gさんは教えるのが苦手で、見て覚えろという事で弟子入りを了承したとの事だった。
武器の確認をし終えるとそれぞれが武器を装備していく。装備が終わるとカイはGさんへと尋ねる。
「Gさん、武器はこれでいいとして防具は作ってないのか?」
Gさんはカイの質問に不思議そうな顔をし、
「そういうのは服屋の仕事じゃろ? わしはできんぞ!」
「いやいや、鉄の鎧や盾なんかは鍛冶屋の仕事だろ?」
「作れるかもしれぬが、わしは作るつもりはないぞ。そもそもがじゃ、斬られる前に斬れば要らぬであろう? ただ動きづらいだけじゃろ」
Gさんの発言に、その場の皆が苦笑いを浮かべるのだった。
「Gさんは防具作れないって事だが――」
「作れないとは言っておらん、作りたくないだけじゃ」
Gさんが防具を作りたくない理由は、単純である。このGさんは重度の戦闘狂で武を愛しており、攻撃が最大の防御と思っている。故に防具は必要無く、武器をこよなく愛していた。ちなみに元の世界では日本刀愛好会の会長と言う肩書を持っいる。
「はいはい、Gさんは作りたくないらしいが、防具はどうしようか?」
カイが皆に尋ねると、ジャックが名乗り出て、
「あの~、私で良ければ作りましょうか?」
皆が顔を見合わせる。誰も反対する者もいない為、防具はジャックに作ってもらう事になった。
この後、店にある商品を見せてもらい、足りない物は作って貰う事にして宿へと戻った。宿に戻り食堂で食事をすませると、直人たちは部屋へと戻った。
部屋に戻ると調理器具が届いていた。銀さんはそれを次々アイテムボックスへと収納していった。
その後、直人は全員を一旦、元の世界へと帰還させた。これは帰還せずに済む状況を作る為の帰還であった。
カイは一度家に戻り、親に住込みで仕事をすると説明し、その後テルの家に行く事になっている。
テルは一人暮らしの為、部屋で寝続けても問題ない環境なのだ。Gさんもこの案に乗り、テルの家に住み着く事になった。銀さんはすでに一人暮らしなので問題はないという事だった。
そういう事で、この日戻って来たのは、銀さんだけであった。直人は戻って来たと銀さんと明日の朝から、食材を買いに行く約束をして、この日は眠りについた。
場所は市場。商店に囲まれた大きな広場にある市場で、露店や屋台があり、沢山の人で賑わっている。その中には直人と銀さんの姿があった。
「大体欲しい物は買ったか。しかし米があったのは助かるぜ」
銀さんがそう言うと直人は嬉しそうに、
「そうですね。久しぶりに米が食えると思うとワクワクしますよ」
「あぁ、期待していいぞ」
銀さんは食材を買ったからなのか、とても上機嫌だった。そんな銀さんが足を止める。
突然足を止めた銀さんの視線の先を直人は見る。脇道から覗く裏路地。そこには浮浪者や浮浪児の姿があった。
それ以外になにも見当たらない事に直人は首を傾げ、(なにを見てるんだ?)と不思議に思いながら尋ねる。
「銀さん、どうかしました?」
「いや何でもない。もどるか」
「ええ、そうですね……?」
銀さんの何でもないと言う答えを、直人は疑問に思いながら市場を後にした。
買い物を終えた直人たちは宿に戻る。宿の主人に許可を貰い中庭で銀さんは調理を始めた。
メニューはすでに昼を過ぎていた為、すぐに作れる焼き飯となった。中庭に香ばしい匂いが立ち込み始めると、匂いに釣られ【ガンマ】のメンバーがやって来た。
物欲しそうに料理を見ているノーマンとジーナ。そんな二人を見て銀さんが、食べるかと尋ねる。
銀さんの言葉に二人は大喜びし、アランとマリーは申し訳なさそうに頭を下げていた。直人たちは【ガンマ】のメンバーと共に食事をする事になった。
銀さんの焼き飯は【ガンマ】のメンバーから大絶賛だった。メンバー全員が店を出さないのか尋ねる程だった。食べ終えると、直人はアランに重い袋を渡した。突然袋を渡されて驚いたアランは、その袋の中身を見ると更に驚いた。
「えっ、なっなんですかこれは?」
アランは驚きの余り、咄嗟に直人へと袋を返そうとした。しかし直人は受け取ろうとはせずに、
「それはアランたちの取り分だ。この間はカイが迷惑を掛けたからな。受け取ってくれ」
アランは直人に返そうとしていた袋を再び覗き込むと、
「いいんですか? こんな大金を貰っても?」
「あぁ、遠慮せずに受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます。何かあれば言ってください、出来る限りのお手伝いをさせて貰います」
「ありがとう。その時はまたお世話になるよ」
直人たちの話が終わると、それを待っていたのか銀さんが、
「さて、そろそろ片付けたいからお開きにしようか」
そう銀さんが言うとアランたちが片付けを手伝うと言い出した。だが、銀さんはそれを断りアランたちは戻って行く。戻っていく途中アランはメンバーたちに囲まれていた。
直人たちから見えなくと【ガンマ】メンバーの叫び声が聞こえて来ていた。
「「「はあっ!?」」」「えっマジ!? 二万ゴールド! やべえ~何買う、何買うアラン?」「ヤバい、ヤバいて、何食べいこうかマリー?」「うふふっ、フルーツ、お腹一杯食べたいかも~」「ダメだよ、このお金は装備品とかのPTの強化に使うから無駄遣いはしないよ」「「「えええぇ~」」」
最後には悲鳴が木霊していた。
食事を終え、片付けが終わると銀さんがコーヒーを淹れ、直人へと渡した。銀さん
は渡し終えると、イスに腰を下ろし直人と向かいあった。
「なぁ直人、お前はこの世界の幸福度の低下を防ぐ為に送られたんだよな?」
「そうですね。天使はそう言ってましたよ」
「この街を見てどう思う?」
真剣な顔をした銀さんの質問に、直人がどう答えて良いか悩んでいると、銀さんはさらに続けた。
「日本と違ってよ。随分と貧富の差が酷いと思わないか。表向きは賑わっているが、裏を覗けば貧しそうな腹を空かせたガキがやたらと目立ちやがる」
直人は銀さんの言葉を聞き考える。銀さんの言う様にこの街には孤児と思われる子供や素行の悪い者が多いように思える。この世界には奴隷制度があり、このリカルダでも多くの奴隷を見かける。アランの話では街の一角に奴隷商の集まる奴隷街と呼ばれている場所もあるとの事だった。
「……気に食わねんだよ。あのガキ共に何か食わしてやりてえって思うんだよ……直人、店やってもいいか? お前たちには迷惑は掛けねえからよ」
銀さんがそう言うと直人は笑みを浮かべて、
「手伝いますよ、一緒にやりましょうよ」
「……ありがとうよぉ」
「帰ってきたら皆にも話してみましょ」
直人たちはコーヒーを飲み終えると部屋へと戻った。
部屋に戻りしばらくすると、カイたちからNINEに連絡があった。直人が招待を送るとカイたち三人はすぐにやって来た。
全員が揃ったところで、直人は銀さんが、店をしたいという話をすると、一部条件付きであるが皆が賛成してくれた。その条件とは、銀さんがいつでも冒険に出かけられるならというものだった。
どういう事かと言うと、店を任せれる人を用意しておき、銀さんがいつでも自由に動ける状態にしていればいいという事だ。
それについて直人たちは話し合うと、奴隷に店番をさせようということになった。これはカイが売り上げ持ち逃げ等の不正をされない為に、そうするべきだと強く主張したからである。
しかし銀さんは、奴隷のような貧しい者を救いたいという思いで店の話を切り出したのだ。そのため、銀さんは最初はこれに反対していたのだが、結局はこの世界の奴隷の扱いの酷さを説明し、普通に店員として使う事が、救済になるいうカイの説得に、しぶしぶ了承した。
明日の朝に皆で奴隷商を見に行く事になった。
直人たちは銀さんの作った晩御飯を食べ、部屋に戻った。
部屋に戻るとGさんがモンスター狩りに行くぞと言い出し始める。すると戦闘狂のカイがその意見に賛同し始める。
それに対して直人たちは、明日は朝から奴隷商を見に行くから今日は休もうと言う意見だった。二つの意見は纏まる事はなく平行線のままだった。
結局カイたちは朝までには戻るという事で、森へと狩りに行く事になった為、直人は同行者としてダニエルを召喚しする。直人がダニエルに、カイとGさんの手伝いをしてくれと、頼むとダニエルは嬉しそうに、
「お任せ下さい主よ。忠義の騎士ダニエル、必ずやご期待に応えて見せましょう!
宿にて吉報をお待ちください」
と、はりきるダニエルだった。
カイとGさんとダニエルの三人が狩りに行き、部屋に残ったのは直人、テル、銀さんの三人になると、
「あの二人、結局行っちゃったスね」
テルがそう言うと直人は苦笑いを浮かべ。
「あの二人は病気だから」
「まあ、あの二人なら心配ないねぇだろ。俺は明日に備えて寝るぜ」
そう言い銀さんが布団に入ると、直人たちも眠りに着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます