アイナオ・異世界で奏でる廃人ゲーマー狂騒曲

貴章(キショウ)

第1話 無理ゲーから始まる異世界行進曲

 住宅街にある一軒家。その二階の一室にベットに寝ころび唸る男が一人。


「うぉぉぉッ、マジで疲れた! 仕事やべえよ。こんなのを定年まで続けるとかムリゲー過ぎるだろ。課金しないとクリアできないソシャゲ並みにヤバいぜ」


 アホな事を言う男は、黒目、黒髪で整った顔をしている。中身はともかく、外見は高スペックなこの男の名は相沢直人。アホな事を言っているが28歳だ。


 仕事を終え、帰宅した直人には既に何の余力も残ってはいない。ゲームでいうならばヒットポイント0状態。そんな彼を睡魔が襲う。


「ヤバいな眠い。寝落ちしちま……」


 直人はそう言いながら寝息を立て始めた。


 寝ていた直人の腹部に衝撃が走る。突然の腹部の痛みに直人は目を覚ます。そこは床と扉以外は何もなく、白い空間がどこまでも続いている世界だった。直人はその白い床で寝ていた。寝起きで働かない頭で考える。(あれ? ここ何所だ? 俺は部屋で寝たはずなんだが?)


「いつまで寝てるんだ、いい加減起きたまえ」


 見知らぬ突然の声に直人は驚き、声のした方を見上げる。そこには金色の髪を七三分けした、細身の男が立っている。男は眼鏡を掛けていて、その奥にある鋭い眼つきが印象的だ。黒のスーツを着ている。男からはやり手、切れ者といった印象を受けると同時に、冷たそうな人物であるとも感じられた。


 直人はそんな男を見て、口をポカーンとあけ止まっている。直人が唖然とする理由は、男の頭の上に浮いている光る輪と、背中にある大きな翼だった。それは人が想像する天使についているものと同じでものであった。


 男は見上げたまま固まる直人を哀れなモノを見るような目で見下ろしながら、やれやれと呆れ「はぁ~」とため息をつき言う。


「君は立つこともできないのかね?」


 男に言われ、直人は慌てて立ち上がった。直人は見慣れぬ辺りをキョロキョロ見渡し、男に恐る恐る尋ねる。


「あの~、もしかしてあなたは天使だったりとかします?」


 男は、尋ねた直人をゴミでも見るかのような目で見ながら答えた。


「そうだが。君には私が天使の以外の何者かに見えるのかね」


 男の肯定の言葉に驚く直人。そんな直人を無視して、男は何もない空間から取り出した書類を眺めながら話はじめた。


「めんどうだが規則だから説明してやるがね、簡単に言おう相沢直人、君は9月19日に死んだ。何の役にも立たずにね、通常だと君は地獄に落ちる事になる。」


 男の突然の説明に直人はついていけずに、


「俺、死んだんですか?」


 驚き直人が尋ねるが、男は書類を見たまま眉ひとつ動かさずに答えた。


「そうだ、心臓麻痺でね。」

「はぁ~?」


 突然の死亡告知に直人が驚き声をあげると、


「説明中だ! 黙って説明も聞けないのかね?」


 男はそう言うとその鋭い眼つきで睨みつけ、直人を黙らせると再び書類に目を戻し続ける。


「そんな哀れな君に私の上司が同情して、チャンスを与えることになったのだよ。少々問題を抱えている世界があってね、その世界の人々の幸福度が低下していてね、君はその世界に行って、幸福度の低下を防いでほしいのだよ。」

「ちょっと待ってください! ただの一般人の私に何を――」


 突然与えられた難題に困惑し尋ねようとするが、男の声が遮った。


「黙れッ! 今からそれを説明するんだ! 今の君では何もできないだろう、だが安心しろ君は体感型VRMMOをやっていただろ? それに酷似した世界だ。剣と魔法、レベル、スキルの存在するファンタジー世界だ。君は数年前までは相当の廃人だったんだろ? それに、異世界に渡った者にはギフトが発動する。ギフトは強力なものだ、それをうまく使えばまぁやっていけるだろう。ちなみに君のギフトは召喚魔法だ。まぁ精々頑張ってくれたまえ。話は以上だ。健闘を祈る。」


 男は言い終えると指を鳴らした。すると直人の足元に魔法陣が浮かび上がり光に包み込まれた。光が消えると直人の姿はそこにはなかった。


 直人が居なくなった空間で男は呟く。


「これで状況が改善すればいいのだが……」


 男はそう口にして、空間にあった扉を潜り出て行った。


 誰も居なくなった白い空間に、突如に姿を現す小さな女の妖精。それは小説神が生み出した眷属、物語妖精だ。物語妖精は物語を見つけ、それを内容を記載したノートを小説神に届けるのが彼女らの仕事だ。


「物語の匂いがプンプン。相沢直人、彼方に決めたわ」


 物語妖精は上機嫌でそう言うと、白い空間から姿を消した。

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