第25話 流入する思念。

 月詠は考えながら階段を下る。

 数多の数多の事物を見聞して来た。

 でもある一定量を過ぎるとどれを見ても在り来たりに思えて来た。

 目新しい出来事が無くなった。

 だから冥府を訪れる術式に取り組みここに来た。

 やっと頭打ちになった出来事を凌駕する何かがこの地下に居る。


 考えが中断させられる。

 いきなり頭の中に他の誰かの思念が入り込む。


 湿気を帯びた苔の上に麻呂は佇んで居る。

 夕焼けだろう山肌を縫って射し込む赤色が眩しい。

 夜の帳が降りる前の最期の太陽の足掻き。

 〈キエーッ〉突然鳥の鳴き声が頭上より迫る。

 デカイ、あんな巨大な怪鳥は初めて見た。

 どんどん、頭上より降下してくる。これは私にぶつかる気か?

 間抜けな鳥だ!人間の僕に鳥如きが挑んでくるとは身の程知らずの鳥だ。

 でも待つでごじゃる。

 このデカさ、デカイと思うのは自分が小さいのか〜。

 待て待て!

 風圧を台風の風の様に感じる“ヤバイ”こりゃ逃げなきゃやられる。

 横っ飛びに避けようとしたが身体がギクシャクする。

 ダメだ間に合わない!

 〈バッン、ガサガサザザザザ〉と鳥が横から張り出していたこの枝に衝突。

 〈キエーッキエーッ〉と悔しそうにじょうくうに舞い戻る。

 助かったと、顔の汗を拭おうと手を出すと…。

 “なんだ〜こりゃ”、手が大きな、そうモグラの前足になってる。

 身体を見回すと。

 なんだ!

 オケラだ!

 “何だってオケラ〜!”驚愕、愕然、放心…。

 〈キエーッ〉また来た!

 オケラ、鳥の好物じゃないか!喰われ〜る。

 逃げなきゃ。

 オケラの身体を思い起こす。

 横には歩けない。前進も危険!

 潜れ〜そう地面に潜るのだ〜。

 前足を全速力で動かして地面に潜る。

 速い一掻きで〈ズバズバ〉地中に潜れる。

 〈グワーン〉と地面に衝撃が伝わる。

 鳥が地面に激突したようだ。

 地響きが地中に伝わる。



 食物を際限なく喰いまくる、すると私の迷宮も拡張。

 倍々ゲームで全てが拡張路線の日々をどれだけ過ごしたのか。

 土の中の暗闇でも視力は良好で何ら不便もなかったけど最近変なのよね。

 根っこを食べようと大きなシャベルのような手を出すと光ってるんだよ。

 〈キラキラリン〉と、然も黄金に輝いてるんだよね。

 オケラは元々体毛が黄金色だったのを覚えているけど、この黄金色の輝きは内側からの発光。

 眩く光る黄金色は身体全体、触覚の先っぽまでも全てが発光している。

 まるで歩くお天道様。

 〈キラキラリン〉と、暗闇の中の太陽。

 ポツリと暗闇の中に光り輝く、けれど誰も居ない独りっきりの静寂。

 御影石のある場所が自分の居心地の良い場所。

 非常に心地良い~。


 人だった頃もずっと独りに成りたかった。

 そんな気持ちと裏腹に回りは、賑やかしの真ん中に自分を引っ張り出した。

 そんな時は一通り賑わったら、〈フッ〉と消えた。

 独り人の輪、喧騒から離れて少し離れた所で佇む時、沢山沢山の何物かが語り掛けてくるその聴こえない声に耳を傾ける事が一番の憩いのひと時だった。

 そんなあったのか無かったのか定かでない人だった頃と思われる記憶を辿りながら、正に今が至福のひと時を手に入れている事に気づく。

 実は嬉々とした喜びに居て心の中は満たされているのが分かる。

 そんなかんなで時間を過ごすオケラの麻呂は長い長い、悠久の大河をずっとずーっと過ごして居た。

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