第6話 大切な人は僕が守るんだ

 現世で終えた命が、異界でまた動き出す事になる。


 そこに現れたお婆さん(正体;ルサールカ)の館に騙され連れ込まれ拉致される。


 座敷牢に居合わせた怪しげなイケメン風獣人の正体は?


 奇妙な世界で巻き込まれて行くだけの無防備な〝みなみ〟と〝ゆうや〟。。。

 

 〜○〜


 薄暗さも目が慣れて、座敷牢の周りも見えてくる。


 牢から右側には、多分一階に下りる階段があるようだ。


 手摺りの横にソファがあり、狐人間が三匹ギャギャ会話している。


 牢から左側は、三階に上がる階段が見える。三階には何があるんだろ?

 

「で、何で三年も入って居るんですか?」


「ふふふふふふ、君を待ってたのだよ!ずーっとね」


 間抜けはアレだけど、嘘つきは好くない!


「もおぅ!ちゃんと答えて下さい!」


「はいはい、3年もボーッとしてると身体が鈍るわ!ふふふ」


「ボクちゃん、牢の真ん中に居てよねふふふ」


「チクマクチクマクシャラララア〜、ゴーレム、巨人化、ボンボンボンボン、

  4倍〜」と呟く


 〈メキメキ、メキ〜〉と、間抜けさんが牢の格子を圧迫する巨大化し始める。


 〈パーン〉と、格子が圧迫に負けて四方に吹き飛ぶ。


「エエエエエエエ〜」〝みなみ〟ちゃんと口開けて呆ける。


「どうだい!嘘じゃないだろ、スプリガンの俺には朝飯前の

  容易いことさ、ふふふふふふ、ふふふ」


「大いに尊敬してくれ給え、遠慮無く、ふふふ」と、

  ゴーレム、多分、石のゴーレムに変幻した〝間抜けさん〟のドや顔。


 〈ミシ、ミシミシ〉と、床が湾曲して沈み込む。


 嫌な予感がする。

 

 石ゴーレムの身体は、ずっと大きくなり続けていた。。。

 

 〈バキバキ、バキー〉と、床が抜けた。

 

 〈ドガーン〉と、一階に落ちた。落ちた〜!

 

 やはり、正真正銘の〝間抜けさん〟、間違いなし!


「あいたたた〜、もう〝底なし間抜け〟!」と、〝みなみ〟ちゃんが吠える。


「大丈夫?〝みなみ〟ちゃん?」


 〈モクモク〉粉塵が収まってくると、先ずはどーんと石ゴーレムの

 のぽーっとした姿が眼に入る。

 

 更にその足下には、玄関正面にあったテーブルが無残にぺっちゃんこになっている。

 

 えーと、お婆さんは何処?えーとえーと。

 

 石ゴーレムが、暖炉の上を指、いや、腕で指す。

 

 〈ゆらーりゆらーり〉と、お婆さんは浮いていた。

 

  その表情は鬼の形相そのもの。


「よくもよくも、、ぐーーーー」と、肩で息、咳をしながら唸り声!


 〈ピカン〉と、石ゴーレムが光る。

 

 すると、飄々とした〝間抜けさん〟に戻る。


「ちょっと、ヤッチマッタな〜ふふふ」

 ちょっとじゃないと思うけどな〜


「ちょっとじゃとーーーーーー、このスプリガンのとんちき男が〜」


「許せん!お主は許せん!、小僧、此方に来いや。逃げられはせぬ」


 事態を察知して、〝ルサールカ〟の使い魔が壁や床から

 〈にゅるにゅるリ〉と湧き出してくる。


 湧き出した後に人型に形成される。


 その姿は:身の丈2メータの骨と皮だけの細身でどす黒い皮膚。


  頭に円錐の深編み笠を被って、手にマサイ族のような長槍を持っている。


 間髪入れずにルサールカとスプリガン睨み合って同時に詠唱が始まる。


「エコイクエコイクマールンバ慈悲無く支配するモノよ、。。」


「チクマクチクマクシャラララア〜、カーバンクル、シルキーカーテン

 ピキーンピキーン」


 スプリガンの詠唱が短くて早い!


「坊や!一階は 〝 槍鬼〟に囲まれた。走るぞ!三階だ」


 逃げなきゃ行けないのは分かる!


「〝みなみ〟ちゃん、行こう!」


 〝間抜けさん〟の後を二人手を繋ぎ追いかける。


「。。。古き盟約に則りその力を発現せよ〜慈悲無き呪縛の棘の蔓」

  とルサールカの詠唱も終わる。


 ニヤリと〝ルサールカ〟。。。だが、

 〝ゆうや〟、〝みなみ〟の足は止まらない。

 

「何故じゃーーーーー、何故、拘束出来ない!」


「カーバンクルの魔法の盾は、全ての魔法を弾くのさ、ふふふ」


 〝ゆうや〟が。目を凝らすと、〝お婆さん〟から伸びる蔦が、

 身体に触れる手前で弾かれる。

 

 弾かれる瞬間に空間が、虹色に光る。


 二階に駆け上がると、狐人間が狐の姿になってソファーの下に頭を突っ込んでいる。

 

 頭隠して尻尾隠さずだ。


「このまま二階奥まで突っ切るぞ!」〝間抜けさん〟が叫ぶ。


 途中破壊された座敷牢と、ぽっかりと崩れ落ちて空いた穴を飛び越え走る走る。

 

 瞬間、穴の下一階から〝ルサールカ〟の刺すような視線を感じた。

 

 三階への階段だ!そのまま駆け上がる。


 後ろから、〝槍鬼〟が〈ゾロゾロ〉と迫って来る。


  〈タタタタッタタタタッア〉

 

 三階は、意外と明るい。丸い円窓から外の日差しが射していた。

 

〝間抜けさん〟は、円窓に走り寄ると、円窓の外に向かって、


 「チクマクチクマクシャラララア〜、サトリ翁、以心伝心〜、フェニクス、

  来い〜!」


 と叫ぶ。


 円窓の外の遠くに大きな森が遠望される。

 

 その森の入口辺りの上空に〈ピカッ〉と真っ赤な光が出現する。

 

 光はぐんぐんとこちらに近づいてくる。

 

 あれは。。。炎を纏った大きな鳥だ!

 

 炎の鳥の周りの空間が熱で陽炎のように揺れている。


「いいか、〝フェニクス〟が円窓の上に来る。

  そしたら〝フェニクス〟が垂らしている梯子に飛び移れ!

  いいな小僧!」


 〝槍鬼〟が投げた槍が〈ブーン〉と、足元に突き刺さる。

 選択の余地無し、従うしかない。

 〝みなみ〟ちゃんもキッと口を結んで頷いている。


「分かった!タイミングを合図して!」と、返事する。

 

 足元の槍が、〈ターン、ターン〉と何本も刺さり始める。


 もう、猶予は無い。

 

 目前に〝槍鬼〟が迫っている。串刺しになる。。。


「行け!急ぐんだ!飛び移れ!」


「行くよ!」、


「行くよ!〝みなみ〟ちゃん!大切な人の手を掴んで僕は宙に

  飛び出す!」

 

 ※ 〝みなみ〟ちゃん、決して手を離すんじゃないよ!

  〝みなみ〟ちゃんを守るためなら僕は微塵の躊躇も無い。


「うわわわあ〜」


 梯子!ぶらぶらし過ぎ。


「ぐわあっ」と、根性で掴み獲る。


 僕が諦めたら、〝みなみ〟ちゃんが助からない!


 掴んだ!掴んだ!ぶらぶらと身体が揺れる。

 握力がんばれ!


 〈ガギーッ〉と〝間抜けさん〟が、梯子の上段に飛びつく!


「ふふふ、作戦通りだ!小僧、感謝せよ」


 〈ヒュンヒュン〉と、槍が頬を掠め飛ぶ。


「ふふふ、〝フェニクス〟よ、例の場所まで渾身の力で飛翔するのだ〜」


 〈キュルルル〜〉と返事のように大きく鳴き上げる。


 〈ガゴ〜ゴオオオオオ〉と、〝フェニクス〟の炎も一挙に燃え上がる。


 〜○〜

 間抜けさん(イケメン風獣人;スプリガン)は、擬態能力に長けるスプリガンだった。

 転生者の中からゆうやを見つけるためにルサルーサの魔女の館に潜入(捕まっていた)

 していた。

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