協同作戦 05


 アルセニー・コルスノフ大将率いるオソロシーヤの後続艦隊12000隻は、5日前に惑星シュツットガルト宙域に到着して、ドナウリア領ネイデルラントからの援軍を待っていた。


 その間に、麾下の艦隊の約8割を失い更迭されたプリャエフ大将の残存艦艇の内、修理が済んで戦闘に耐えうる1500隻を自艦隊に組み込み再編を行う。


 艦隊再編と援軍到着を待つ間、コルスノフ大将の元にはガリアルム・エゲレスティア同盟艦隊(仏英艦隊)がこの惑星シュツットガルトに向かって、北上しているという情報が逐一齎されていた。


 その訳は、仏英艦隊がシュツットガルトへの航路上にある友軍の惑星と施設を占領しながら進軍しているためで、占領された惑星と施設からその都度救援を求める通信が入ってきていたからである。


 だが、コルスノフ大将はその救援要請を黙殺して、シュツットガルト宙域で援軍を待っていた。


 理由は簡単で、救援に向かっても現在の兵力差は劣勢であり、敗北する可能性がある。


 それに、救援を求めるゲルマニア諸国と彼の所属するオソロシーヤ帝国は、直接的な同盟関係にないため、危険を冒してまで救援に向かう必要はない。


 現に救援に行かなくてもいいのに、功績欲しさに向かって大損害を出したプリャエフは、更迭されておりその轍を踏みたくはない。


 そう考えた彼は、援軍と合流してから動くことにした。


 そうしている間に、ドナウリア領ネイデルラントからの援軍艦隊3000隻がようやく到着する。


「よく、来てくれた」

「こちらこそ。遠路遥々の援軍、感謝する」


 コルスノフ大将は、ネイデルラントから援軍の艦隊を率いてやってきたプロヴェラ大将を迎えると、社交辞令と握手を交わした後に作戦会議を始めた。


「今、ガリアルム・エゲレスティア同盟艦隊はここより、南に位置する惑星ヘレンベルクに駐留しており、貴官の艦隊の補給が済む翌日には更に北上して、惑星ゲトリンゲンに到達するだろう」


「ここで、敵艦隊が来るのを待つのですか?」


「いや、ここは艦隊の補給が終わり次第打って出て、数的有利を活かして先制攻撃を行い、主導権を握ろうと思う」


「なるほど、その方がいいかもしれませんな」


 こうして、オソロシーヤ・ドナウリア領ネイデルラント同盟艦隊(露墺艦隊)は、補給の済んだ翌日の6月29日に南下を始める。


 その頃、惑星ヘレンベルクに駐留していた仏英艦隊も北上を開始していた。


 その航路上で先行させていた偵察艦より、露墺艦隊が南下を始めたという情報を得て、作戦会議を行うことになる。


「コンピュータの計算によると両艦隊がこのまま進軍すれば、7月1日に惑星ベーブンゲン宙域で会敵するとなっています」


 クリスが接敵の情報を伝えると続いて、ベーブンゲン宙域の宙域図を見ながら、作戦の計画を立てることにした。


「我々は2つの点で不利な状況にある。一つは数の不利、もう一つは補給である」


 ヨハンセンの言う通り、仏英艦隊は進軍してきた航路上の惑星と軍事施設を占拠して、補給路の安全を確保してきたが、それでも国境からは遠く補給線としては少々心許ない。


 長期戦になれば、同盟国に囲まれた露墺艦隊よりも、補給線が長い仏英艦隊のほうが不利になるのは自明の理である。


「よって、まともに戦っては、我々の勝利は難しい。そこで、私が考えた作戦がこれである」


 エリソン中将が立てた作戦は短期決戦を期すもので、当然その分被害は多くなるだろうが、長期戦をして万が一補給が滞れば、もっと被害が増すであろう。


 会議に参加した司令官達は、エリソン中将の作戦を元にして、更にそれを練り上げていく。


 作戦が決まり会議室を後にして、乗艦に戻ってきたパッカー准将は、再び上官に不安を漏らし始める。


「閣下、本当に大丈夫でしょうか? ヨハンセン中将を始め、あのサングラスを掛けた中将もとても軍人に見えませんでした。それに、廊下では白いフリフリの付いた服を着た中学生のような小柄な女性士官もいましたし… ガリアルムで軍人らしいのは、あの若い少将ぐらいですよ」


 部下に二度目の不安を訴えられたエリソン中将は、それを払拭するために次のような話をおこなう。


「まあ、今更心配しても仕方がない。それに、人を見た目で判断するのは、あまり良くないぞ、ウィレム。彼らの主であるフランソワーズ・ガリアルム殿下は、その人形のような美しい姿とは裏腹に、かなりのやり手で且つ恐ろしい方だったからな」


 エリソン中将は、数年前の戦役の時にガリアルムの首都星系の警護を頼まれた女王の命令で、艦隊を率いてパリスの護衛をおこなっており、帰還したフランに謁見して感謝と労いの言葉を受けていた。


 その時に彼は当時僅か17歳のフランに、自分が仕える女王陛下と同じかそれ以上の威風と才覚を感じている。


「彼らはその殿下が、軍制改革の時に自ら抜擢した人材だという。恐らく見かけによらず優秀であるはずだ」


 彼はそう言ったがそれは理屈からではなく、自分の中の名将としての勘とも言うべきものが、彼らは信頼できると言っているのを感じているだけであった。


 だが、不思議とその勘を信じて、ガリアルムの司令官達を信頼している。


 第一次対仏大同盟の行く末を決めるベーブンゲンの戦いが迫っていた。

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