死闘マレンの戦い 01



 惑星フィリポーナ宙域で、補給と艦隊の再編中の本隊と合流したルイは、フランの座乗する総旗艦『ブランシュ』に連絡艇に乗って移動する。


 そして、フランのいる艦橋まで行くとそこには既にリュスとイリス、エドガーが到着しており作戦会議を行っていた。


 ルイはフランに敬礼すると、まずは独断で彼女の命令を変更した事を謝罪する。


「フランソワーズ殿下。救援命令を受ける前から、独断で引き返してきてしま― 」


「謝罪する必要はない。オマエには自由裁量権を与えているし、今回のオマエの判断は寧ろ称賛に値する」


 フランは、指揮席から立ち上がるとルイの言葉を遮って、謝罪する必要はないと答え、その後に続けて「それよりも……」と、何かを言いかけるが言葉を止めた。


 彼女は洋扇を広げて、口元を隠すとルイから目線をそらして、少し考えた後に意を決すると洋扇を閉じて、彼に現在の状況を問い始める。


「現在の戦況について…、オマエはどう思う?」

「このままでは我軍の負けです。ですが、まだ逆転する為の機会は残っています」


 戦況を問うてきたフランの表情は、見た目は冷静さを保っているが、その淡い青い瞳はいつもの自身に満ちた目とは違い、不安に満ちている事に気付いたのはルイだけであった。


(フラン様のこんな不安そう瞳を見るのは、僕がマントバ要塞を攻略する時依頼だな… つまり、フラン様もこの戦況をひっくり返す戦術は僕と同じ考えということか)


 とはいえ、総司令官が不安に思っている事など指揮に関わるので、ルイはその事には触れずに、続けて自分の考えた戦術を説明する。


 フランはルイの戦術を黙って聞いた後に、司令官達に彼の戦術を採用する考えを伝えた。


 それは、贔屓ではなくルイの戦術が優れていたからであるが、敵が迫ってきている為に作戦会議に時間を掛けておられず、準備にも時間が掛かる以上、優れた戦術なら直ぐに実行するべきだとなったからである。


 各司令官達も納得して、自分の艦隊に戻り戦術の準備を始めた。


「ルイ… 」

「はい?」


「無理は… するなよ。武運を…」

「はっ」


 艦橋から出ていこうとしたルイに、フランは声をかけると何か言おうとするが、その言葉を飲み込むと無難な激励の言葉を彼に伝える。


 ドナウリア艦隊が、ガリアルム艦隊の3万キロの地点まで到着した時には、ガリアルム艦隊は陣形を何とか再編しており、左翼にルイ艦隊3000隻、その後ろに予備兵力のエドガー艦隊1000隻、その左には今も再編中のイリス艦隊1500隻、


 右翼にはリュス艦隊3000隻、その後方に予備兵力のフラン艦隊2000隻が控えていた。


 対するドナウリア艦隊は、左翼にオトマイアー艦隊5000隻、右翼に参謀長のザハールカが総司令官代理として率いるメーラー艦隊6000隻である。


 ※実際には双方撃ち減らされているので、もう少し艦隊数は減少していた。


 イリス艦隊の再編時間を稼ぐために、ガリアルム艦隊からは距離を詰めずに待ち構える形となり、両艦隊の距離が2万1千キロになった所で、射程距離の長い最新鋭艦隊を有するガリアルム艦隊からビームの先制攻撃が行われる。


 ガリアルム艦隊から放たれたビームは、点による集中攻撃で敵艦のシールドを一気に破り、効率よく数を減らしていく。


 そして、敵の射程範囲である2万キロに到達してからは、面による制圧射撃に変更して、敵艦隊全体を攻撃してその進軍を鈍らせる。


 双方から激しいビームやミサイル、レールガンの応酬が行われ、両艦隊一歩も退かない撃ち合いとなるが、前衛の艦隊数の少ないガリアルム艦隊が少しずつ押され始め、マレン宙域の前哨戦と同じくその攻撃を受け流すために、じわじわと後退を余儀なくされた。


 特にメーラー艦隊を相手にしているルイ艦隊は、倍の敵に善戦しているがリュス艦隊よりも後退速度が上がってしまう。


 ルイの旗艦には、今までの戦いよりも多くのビームがシールドに当たり、外を移しているモニターはその都度光り輝いている。


「閣下。旗艦を少し後退させたほうがよろしいかと思われます」


「いや、ここで旗艦を下げれば、敵の猛攻を受けても必死に踏み留まっている兵士達の指揮が下がってしまう。もう暫くはここで耐えるしか無い」


 ルイのこの読みは当たっており、ルイの艦隊が倍の数の敵の攻撃を受けても壊滅せずに撃ち合えているのは、司令官が自分達と同じ危険な前線で戦っているからであり、司令官が退かないのに自分達が退くわけにはいかないと考えているからであった。


 戦闘開始から20分―


 ようやく再編を完了したイリス艦隊がルイ艦隊の左翼につく。


「よーし! ルイっちに負担を掛けた分、私達も頑張って攻撃を開始するよー!」


 イリスの攻撃命令を代弁したアリスは、その軽い命令の仕方にイリスにポクポク叩かれていたが、イリス艦隊はその命令で一斉にメーラー艦隊の主に右翼に攻撃を開始する。


 ようやくガリアルムの左翼艦隊は、5000隻 対 6000隻となり、なんとか互角に撃ち合うことができ後退を止めて撃ち合いを始めた。


 敵右翼を指揮するザハールカでは、前哨戦で見事な防御戦を見せたイリスとこの戦場で、フランの次に有能な指揮官であるルイが、不退転の覚悟で指揮するガリアルム艦隊左翼を押すこともましてや撃ち崩すことも出来なかった。




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