北ロマリア戦役終結 01
パドゥアの戦い終結から5日後、破損した艦の応急処置と投降した艦の武装解除乗組員の拘束を済ませたガリアルム艦隊は、パドゥアでは万が一ドナウリアが攻めて来た時に対処しにくい事からマントバ要塞まで後退する。
それに先立って、ロマリア艦隊司令官のガルビアーティ大将と通信を行う。
「今まで警護をしてくれて感謝する。我々は一度マントバ要塞まで撤退するが、貴官とその艦隊にはボローナを抑えて貰いドナウリアに睨みを利かせて貰いたい」
「承知しました。ところで、例の話ですが…」
フランはこの5日の間に、ガルビアーティ大将とドナウリアとの講和条約内容を話あっていた。
「我が国はドナウリアから北ロマリアの内、マントバ、パルナ、ジェノアのラインから西域の割譲を要求する。そこからヴェネーシアまでは、貴国が要求するとよいだろう。我が国も同盟国として圧力は掛けるが、そこからは貴国の外交能力次第だ」
彼女は以上の話し合いで決まった内容を確約する。
ロマリア艦隊のガルビアーティ大将には、ボローナで待機して貰うことにして、両国の艦隊は戦場を後にした。
ボローナに向かう航路中、参謀がガルビアーティ大将に、次のような質問をする。
「閣下。どうして、ガリアルムは我が国に今回の戦役で占領したマントバからヴェネーシアまでの占有権を譲ったのでしょうか?」
「我が国が同盟相手だというのもあるが、あの白いお姫様は我が国をドナウリアと領土を隣接させて緩衝国にするつもりなのだ。その綺麗な見た目と違って食えないお嬢さんだな」
ガルビアーティ大将の推察通り、戦いとなれば新領土獲得でドナウリアに隣接することになるロマリアが、真っ先に攻め込まれるのは自明の理と言えるだろう。
だが、ロマリアとしてはそれが解っていても今回の戦争で消耗した国力増強のために、領土は少しでも増やしておきたく、そこをフランに上手く利用された形となったのだ。
マントバ要塞で更に3日掛けて、艦を修理したフランはマントバ要塞と残りの修理中の損傷艦をヨハンセンとロイクに任せて、自分は麾下の艦隊3000隻にルイとクレール、シャーリィを連れてパリスに帰還することにした。
マントバからパリスまでワープを駆使しても約6週間を要する。
その間ルイは、フランにシャーリィと必要以上に仲良くならないかヤンデレ目で常に監視され、その目に怯えながら道中を過ごすことになった。
フランは当初ルイを自分と同じ部屋にとも考えたが、嫁入り前の娘がその様な“はしたない真似”は駄目だとギリギリで踏みとどまり(日和って)別室を用意させている。
そんなある日、フランはシャーリィと話したい事があったので、ルイとシャーリィとを歓談させないために『女の子だけの秘密のお茶会』と称して、彼を誘わない口実を作りクレールを加えた三人でお茶会を行っていた。
シャーリィは自慢のティーセットで、お気に入りのアールグレイを優雅に入れて、フランとクレールに振る舞うと自分も椅子にお淑やかに座り、小さな口で少しずつ上品に飲み始める。
(一々動作が可愛いな。やはり、ルイに近づけさせるわけにはいかないな)
そんな従姉妹シャーリィの挙動を観察しながら、フランは心の中でそう考えていた。
従姉妹なので容姿は似ており、二人共容姿端麗であり甲乙はつけがたいが、フランの方が容貌は優れている。
だが、色素が抜けている事がコンプレックスなフランにとって、綺麗な金髪と鮮やかな青い瞳を持ち可愛いらしい振る舞いをするシャーリィはとても魅力的に見えており、それ故にルイが彼女を好きになるのではないかと心配していた。
逆にシャーリィの方は、フランの美しい神秘的な姿と天才的な頭脳で国を動かす正しく才色兼備な彼女に憧れと尊敬の念を抱いている。
つまりは両者とも相手の自分にないモノを持っている所に、羨み憧れているのであった。
フランは暫くシャーリィの入れてくれた紅茶を楽しむと、今回のお茶会の目的である話を始める。
「私は今回の講和条約の条件で得る領土の内、サルデニアの旧ガリアルム領を除いた領地を衛星国にしようと思っている。」
「その新しい国の王に私の両親をということですわね?」
シャーリィは、フランが王に予定している人物の名を語る前に言い当てた。
「そのとおりだ。王には、父上の弟王でありシャーリィの父上であるオレルアン公アンリ・ドレルアン殿と考えている」
オレルアン公アンリ・ドレルアンは、現国王の弟であり衛星国を作るなら、その王になる一番目の候補者であるが、その娘であるシャルロットことシャーリィからは意外な言葉が返ってくる。
「娘の私が言うのもなんですが、あの両親には例え飾りとしても一国を収める王には向いていないと思いますわ。のんびりとした父と母には今の惑星オレルアンの領主ぐらいが丁度いいのですわ。それに、おそらく現状で満足している父上は辞退すると思いますわ」
シャーリィは表示一つ変えずに両親をそう酷評すると、ソーサーに置いてあったティーカップを持ち上げ上品に紅茶を飲み始めた。
「実のご両親に酷評ですね…」
その可愛らしい外見からは、想像できない毒舌を言い放ったシャーリィを見て、クレールは少し驚きながらそう発言する。
「真実ですわ、クレールさん。それに、分不相応の役目は、不幸を招くと歴史が証明していますわ」
シャーリィがクレールの方を見ながらそう答えると、彼女はそれに対して何も答えなかった。
身内の白ロリ様がそう考えるのは構わないが、クレールが肯定するのは問題になるかも知れないからである。
「とはいえ、それはシャーリィの意見であって、叔父上の意見でない。まずは、叔父上に打診して、引き受けなければ別の候補者を探すしかないな」
(まあ、確かにあの叔父上なら辞退するだろうな…)
フランもシャーリィと同意見であった。
仮にオレルアン公が王になりたいという気概や野心を持っていたなら、サルデニアと反乱を起こした貴族達による前年度のクーデターでの首謀者は彼になっていたであろう。
貴族達にとっては、王位継承権を持つオレルアン公を反乱の首謀者に担ぎ上げれば、理由はどうあれ新たなる王の元に政権を立て直すという大義名分となり、現政権に不満を持つ者達を糾合することが出来き、更にオレルアン公を支持すると称した外国の力も借りやすくなる。
だが、王の座には興味のないオレルアン公は、現状に満足していると言って、その話に乗らなかった。
そのため反乱軍は、正当な大義名分の無いまま反乱を起こし、敗れることになる。
フランはこの事からも、叔父が今回の事を辞退する可能性は非常に高いと推察した。だが、一応最初に彼に打診しなければ、角が立ってしまう可能性があると考えての今回の要請でる。
その頃ルイは、自室で”男性”の給仕係が持ってきた食事を一人寂しく食べていた。
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