北ロマリア戦役終結 02



「ところで、フラン様は帰国したら今回の勝利をもって、王位に就くのですか?」


 シャーリィは紅茶のおかわりを入れながら、何気ない感じでフランに尋ねる。


「いや、17歳ではまだ若すぎると不安視する者や若輩が王になる事に、反発を持つ者もでるだろう。後数年は父上に任せるとしよう」


 現国王であり父親であるシャルル・ガリアルムは、国王としては甘すぎるが暗君ではなく、むしろ民を大事にする王様であるために国民からの人気は高い。


 よって、まだ政権の地盤が固まりきれていないのに、戦争で国を空けるフランとしては、むしろもう暫く父親に王位に就いていて欲しいと考えている。


(まあ、講和条約が決まっても、また戦争になるだろうからな…)


 フランは紅茶を飲みながら、高い確率で来るだろう未来を予測していた。


 領土を奪われるドナウリアが、このまま黙っている訳はなく戦力を回復させれば、今回失う領土奪還を行うのは火を見るよりも明らかであり、フランは次の戦いまでにその準備をできるだけ行わなければならない。


 お茶会の数日後の夕食―


 ルイはフランの部屋で彼女のシチューをごちそうになりながら、いつもの戦術・戦略の話をおこなっていた。


 この夕食の本来の目的は、食事と『年頃の男女の楽しい会話』とでルイとの距離をもっと縮めるためであるのだが、いかんせん恋愛中学生のフランには『年頃の男女の楽しい会話』というものが出来ない。


 ルイが会話を盛り上げることができればいいのだが、そのフランによって女性との会話が制限されているために、女性との会話術が磨かれていないので無理であった。


 そうなると二人ができる会話となると、ムードが盛り上がる話ではなく現在の政治状況や軍事の話となる。


 しかも、フランはむしろそういう話が好きなので、ついつい饒舌に長々と話してしまう。


「今回、我々がこれほど圧倒的勝利を得た理由は、相手の不備を突いたからだ。サルデニアもドナウリアも軍備と人材が備わっていなかった。それは、過去数十年における為政者達の私腹を肥やす行為とそれに伴う楽観的思考によるものだ」


「私腹を肥やすために、軍事に回す予算を自分達の懐に入れたからで、それによって敵の戦力の半分は水増しの老朽艦になってしまったということですね?」


 ルイが自分の意見を述べると、フランは肯定の意を込めて頷き説明を続ける。


 その判断をさせたのが、サルデニアは大国ドナウリアの後ろ盾があるという楽観的思考であり、ドナウリアは大国であるという慢心と数が揃っていれば勝てると考えた、これも楽観的思考といえるだろう。


「まあ、一番の原因は人材だな。両国とも人事がどう採用されているか知っているか? 能力ではなく世襲とコネだそうだ。本来ならその地位に就く実力の無い者が政治と軍事を運営しているのだから、組織として弱体するに決まっている」


 フランはそこまで説明すると、ワインに偽装したぶどうジューズを飲んで喉を潤し再び話し始める。


「しかも、誰も責任を取りたがらないから、会議も長引くし無難な策しか取らない。そんな無能共が私と私の選んだ人材に勝てる訳がない。やつらは、負けるべくして負けたのだ」



「我が国もフラン様が改革しなければ、同じ結果になっていたかも知れませんね…」

「そうだな…。だが、軍事面においてはそうでもなかったのだ」


 フランの説明によると要塞の維持費は削られていたが、戦闘艦は艦隊司令長官アンドレ・バスティーヌ大将とシャルル国王によって、戦う兵士の為になるべく新しい艦を保有する事を認めさせていた。


 軍事費を削って懐に入れたい者達も、国王の厳命となれば従うしか無い。


 それでも、ガリアルムほどの国が約7000隻しか戦闘艦艇を保有していないのは、当時の政権がいかに楽観的思考に支配されていたかわかる。


 フランはそのような事をした者達を、いつか罰してやろうと考えていた。


「だが、次はこうはいかないだろうな…。今回の敗北でドナウリアの中で、人事の刷新と軍事の改革が起きるであろう。その成果次第では、次の戦いは厳しいものになるであろう」


 ルイもドナウリアとの戦いが起きることは推察していたので、その言葉には驚かなかった。

 そして、フランの予測通り、今回の敗戦によってドナウリアは人事の刷新が行われることになる。


「ところで、ルイ…。今日の私はどこか違うと… 思わないか?」


 フランは少し恥ずかしそうに、モジモジした感じで尋ねてきた。


(いつもと、どこか違うだろうか?)


 ルイはフランを見渡しいつもと違う場所を探してみるが、なかなか違いがわからない。

 そうしているうちに、最初はモジモジしていたフランであったが、違いに気づかないルイにだんだん怒りが湧いてくる。


 その理由は、女性が髪を切った時に『私が好きなら、変化を見逃すはずがないでしょう? だったら、どうして髪を切った事に気がつかないの?』と同じであった。


 だが、ヤンデレ(フラン)の場合『どうして、違いに気づかないのだ? それは、つまりいつも私のことをちゃんとよく見ていないということだ! いや、もしかしたら、他の女を見ているからだな? これは、お仕置きが必要だな? まずはその目を―― 』となり、危険度は更に上る。


 ルイもフランの目がヤンデレ目に変化しそうになっているのに気づいて、身の危険を感じながら、必死にこの恐怖の間違い探しのクリアを目指す。


 そして、彼はようやくその間違い探しの答えを発見することが出来た。


「頭の黒いカチューシャが、今日は黒の『リボン』になっていますね」

「さすが、ルイ。よく気づいたな! そうだ、今日は『リボン』なのだ!」


 ルイが違いを指摘すると、フランのヤンデレ目に輝きが戻り嬉しそうに話し始め、彼も命の危機を回避してホッとする。


 そう、このリボンはクレールが戯れで提案した『私がプレゼント作戦』のアイテムであった。

 フランは首都星への長い帰路で、実行しよかどうか悩んでいて、今回遂に意を決し作戦決行としたのである。


 当初は事前に調べて出てきた赤いリボンにしようと思ったのだが、あまりにも狙いが伝われすぎて、彼を引かせてしまうのではないかと推測し、更にその状況における恥ずかしさに自分が耐えきれないとなった。そのためにまたもや日和って『黒のリボン』、しかもカチューシャの代わりにしたのである。


「似合っていますね」


 当然、ルイにはその真意は伝わらずに、無難な答えが返ってきてしまう。


「そうか~♪」


 だが、フランは褒められたので『良し』とすることにした。


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