新たなる戦いへ 04


 ドナウリア帝国ロマリア侵攻艦隊は、ガリアルムの一連の補給遮断作戦により兵站を切られ、補給が受けられなくなり撤退を余儀なくされる。


 そのため、侵攻作戦を断念し本国に撤退するために北上を続けていた。


 北上すること9日目に、惑星ペルージア宙域付近でマントバ要塞失陥の報告を受けて以来、一切の情報が入ってこなくなる。


 その原因は、フランの命を受けたロイク艦隊によるドナウリアの通信中継施設とレーダー施設破壊作戦によるもので、これによりロマリア侵攻艦隊は本国からの情報とガリアルム艦隊の動向を知ることが難しくなってしまった。


 そして、この通信遮断は侵攻艦隊にもう一つの問題を生じさせる。


 侵攻艦隊は補給が途切れているために、物資不足に陥っていた。

 ミサイルやレールガンの弾なら、戦闘にならない限り問題ないが食料はそうはいかない。

 食料が尽きれば、兵士達の士気は当然下がり、その分司令部に対する不満は高くなっていく。


 その結果、脱走兵がでたり最悪暴動や反乱が起きたりするかも知れず、それを防ぐには食料を手に入れなければならなった。


 そうなると兵站が切られている以上、食料を手に入れる方法は、航路上にある惑星からの略奪しか無い。


 だが、当然略奪に対して現地民から抵抗を受けることになり、そうなれば時間が掛かってしまい、追撃して来ていると予想されるロマリア王国艦隊に追いつかれる可能性が出てくる。


 ロマリア王国艦隊は、侵攻艦隊より数は半分の為に追いついてきたとしても、おそらくは戦いを仕掛けてこないであろう。


 だが、ここで問題になるのが、動向の解らないガリアルム艦隊である。


 動向が解らない以上、いつガリアルム艦隊が目の前に現れ、会戦になるかわからない。


 そうなれば、追いついてきたロマリア艦隊と挟み撃ちになる事は避けられず、そうなれば艦隊が殲滅される可能性はかなり高いだろう。


 ロマリア侵攻艦隊の指揮官ヨアヒム・アルデリアン大将は、それを避けるためにロマリア王国艦隊に追いつかれないように、略奪は最低限にして本国への帰路を急いでいた。


 ロマリア艦隊に追いつかれなければ、最悪ガリアルム艦隊に補足され会戦になっても、挟撃されずにまだ勝機はあると考えたからである。


 だが、最低限の略奪のために、食糧不足はあまり改善されずに、兵士達の士気は下がり続けていた。


 参謀長のデニス・マイアー中将は、その状況を見て指揮官に次のような意見を進言する。


「閣下。食糧不足で、兵士達の士気が低下しております。やはりここは、危険を冒してでも一度本格的な略奪をするべきではないでしょうか? このままでは、ガリアルムとの戦いで挟撃されないとしても、兵士達の士気が低く長時間の戦闘は不可能だと思います」


 別の参謀が、参謀長の進言をこう言って援護した。


「それに、必ずしもロマリア艦隊が追撃して来ているとも限りません。ロマリア王国艦隊にも今までの戦いでそれなりの被害が出ており、追撃する余裕がない可能性もあります」


 この参謀の言う通り、今のところ後方に配置している偵察艦からは、追撃艦隊発見の報告は入っていない。


「貴官の言う通り、追撃して来ていない可能性もある。だが、あくまで可能性であって、真実ではない。確かな情報がない以上、希望的観測で行動を決めるようなことはすべきではない」


 慎重な指揮官に、別の提督がこのような策を提言してくる。


「それでは、ロマリア艦隊にわざと追いつかせ、まずは奴らと戦い殲滅させ、その後にガリアルムと戦うというのはどうでしょうか?」


「私もそれは考えた。だが、やつらはガリアルムと挟み撃ちする事を考えているだろうから、こちらから戦いを仕掛けても、おそらく距離を取って逃げるであろう。そうなれば、我艦隊は、余計な時間と物資を浪費して、更に挟撃される可能性が増すだけだ」


 彼らの最善の策は、アルデリアン大将の当初の方針通り、ロマリア艦隊に追いつかれないようにして帰路を急ぎ、ガリアルム艦隊に補足されれば、決戦せずに紡錘陣形などで逃げに徹することである。


 惑星ペルージアから北上すること8日、エミニア=ロマーニ星系南東外縁部にある惑星チェセーナに到着したロマリア侵攻艦隊は、そこで食料を得るために略奪をおこなうことにした。


 ロマリア侵攻艦隊の天底方向25万キロの位置にいる、ロイク艦隊が略奪をおこなっている敵艦隊に向かって、その機動力を活かして最大船速で接近する。


「前方に、敵偵察艦発見!」


 オペレーターの報告を受けたロイクは、すぐさま艦隊に指示を出す。


「よし、全艦最大船速、攻撃準備! 敵偵察艦撃破後、そのまま前進して、敵艦隊に一撃を加える! 戦術データをリンクさせて、無駄なくできるだけ多くの敵艦艇を撃破せよ!」


 その姿はすっかり歴戦の指揮官といった感じであったが、もちろんまだ『童の者』である。


 偵察艦がロイク艦隊に気付いた時には、既にビームが飛んできており、本体に発見の通信を送る前にそのビームによって船体を引き裂かれ爆散していく。


「今、何か光ったような…。あ~、腹減ったな~」

「気のせいだろう? 飯食いたいな~」


 光学望遠で監視していた兵士が偵察艦の爆発に気付くが、空腹のために判断力が低下しており報告に至らなかった。


 そして、暫くしてその兵士達は天底方向から、飛んできたビームによって乗艦ごと爆散して宇宙の塵となる。


「敵襲! 天底方向より敵襲!」


 ロマリア侵攻艦隊に、敵襲撃のアラームとオペレーターの敵艦隊来襲を報告する声が響き渡った。


 ロマリア侵攻艦隊は、各司令官の指示でシールドを張って迎撃態勢を取るが、ロイク艦隊はビーム砲を三回斉射すると、敵が反撃してくる前に撤退を開始する。


「敵艦隊は急速回頭して、高速で撤退していきます!」

「閣下、追撃なさいますか?!」


「いや、あの速度では追撃は間に合わないだろう。それよりも、被害報告を!」


(あれが報告にあったステルス艦隊か…)


 アルデリアン大将は、高速で戦場を離脱する敵艦隊を見て、そう判断すると被害報告と負傷者の救助を命じた。


 ロイク艦隊は補給と隠密性の為、1000隻で作戦行動を行なっていた為に、ロマリア侵攻艦隊の被害は500隻程度である。


(敵の別動部隊がいるということは、ボローナからガリアルム艦隊本体も迫ってきているのではないか?)


 状況報告を受けて、このように考えたアルデリアン大将は、次のような命令を艦隊に下すことにした。


「修理している時間がないため、航行出来ない艦はここで自沈させる。急いで乗員を無事な艦に移乗させよ」


 ロマリア侵攻艦隊は、略奪と並行で損傷艦の自沈をおこなうと、略奪を早々に切り上げて進軍を再開させる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る