新体制 05
年末二日と元日を、特に進展が無く過ごしたルイとフランではあったが、二人の関係は特に進展しなかったが、一緒には過ごせたし連休中に彼が他の女と仲良くなるのを防ぐことができたので、よしとすることにした。
フランがその結果で満足しているのは、サルデニア侵攻を控えていた為に、流石の彼女にも余裕がなかったからである。
一月二日、フランはルイとの進展がこれ以上進展しないと判断すると、新年の休暇を早々に切り上げ、各提督と軍高官を集めて軍本部で新年最初の軍事会議がおこなわれた。
新年の挨拶をおこなうと、そのまま今年の軍事計画の発表をおこなう。
その主な内容はサルデニア侵攻であり、彼女はいくつかの決定事項を知らせる。
一月の半ばくらいで、艦隊数が約10000隻まで増艦する予定になっており、それをフランの第一艦隊に4500、ヨハンセンの第三艦隊に3000、ロイクの第四艦隊に1500、リュスの第五艦隊に1000として再編すること。
ルイを代将に昇進させて、自分の第一艦隊の分艦隊1500隻の司令官にすること。
一月五日に、正式に今回の反乱の責任を【サルデニア王国】に通告すること。
【ドナウリア帝国】の【ロマリア王国】侵攻の状況次第で、開戦に踏み切るのでそれまで艦隊の訓練を怠らないこと、以上であった。
約半年で3000隻造艦できたことには、理由があり3000隻の内約1500隻は生産性の高い砲艦であった。
この世界の砲艦は駆逐艦程の大きさの船体に、戦艦に匹敵する大型ビーム砲を艦首に四門装備している。
構造上艦首にビーム発射口があるために、艦前方にしか撃てず照準も艦自体を動かして合わせなくてはならず、駆逐艦の動力で大型砲を乗せているので、当然船速は戦艦並みに遅いし連射も遅い。
考案された時は、その量産性と火力でそれなりに生産され運用されたが、そのデメリットの多さからこう考えられるようになる。
<これなら平時はこれ数十隻量産するより、柔軟に扱える戦艦や巡洋艦を数隻でも作ったほうが良くね?>となり、戦艦を作れない小国以外、今はほぼ運用されていない。
だが、運用次第で戦果は充分あげられるので、フランはマリヴェル博士に砲艦の新型艦を設計させ造艦させた。
フランは会議の最後に、自分の読みを各員に伝える。
「私の読みでは開戦は、最速で二月、遅くても三月だと思っている。それまでに、各員艦隊が出動出来るようにしておくように、以上」
「はっ!」
参加者は敬礼して、任務了解の意思を彼女に伝えた。
会議の後に簡素な新年のパーティーを行うと、参加者は持ち場に戻っていく。
ルイが突然の分艦隊司令官任命に、戸惑っているとフランが近寄ってきて、このように言って彼の不安を取り除こうと言葉をかけた。
「何も心配することはない。今回は私の元で、私の指示で艦隊を動かすだけだ。いわば艦隊の指揮に慣れるための実地訓練みたいなものだ」
そして、フランは広げた洋扇で顔の下半分を隠すと、目線を逸らして恥ずかしそうにこう言ってくる。
「それに…、オマエは私が認めた者なのだから…、これぐらいできなければ困る…。いずれは、正式な艦隊司令官として、私の右腕として…、将来的には私の伴侶として… ごにょごにょ…」
フランは頑張ったのだが、残念ながら将来的あたりから恥ずかしさのあまりに、声が小さくなってしまった為にルイには聞こえなかった。だが、彼はフランの期待に答えねばと怯懦な自分に活を入れ、彼女にこう宣言する。
「フラン様! 僕はフラン様の力になれるように、頑張ります!」
それを会議室の扉の向こうで、聞いていた三提督は三者三様の反応を見せていた。
「青春だね…」
ヨハンセンは両腕を組んで、そう言いながらうんうんと頷いている。
「恋か……。もう、何年していないだろうか……」
リュスは遠い目をしながら、そう述懐している。
「(ラノベかよ! 氏ね! リア充氏ね! バカップル氏ね!)」
ロイクは壁に向かい、壁を数度叩きながらブツブツ呟いている。
「お三方、盗み聞きはどうかと思いますよ」
クレールは三提督に、いつもの冷静な表情で冷静な突っ込みをおこなう。
その夜、ルイは自分の部屋で後悔していた。
「また小説家になる夢が遠のいてしまったな…」
彼は、執筆の進まない小説の書かれたモニターを見ながら、自分の昼間の発言を思い返しそう呟いていた。
一月五日、フランは全宇宙に向けて、正式に今回の反乱の責任を【サルデニア王国】に追求し、関与の証拠として捕虜にしていたサルデニア軍人達の内、司法取引に応じた者達の名前と軍籍を証拠として提示し、更にその捕虜達を拿捕した非武装の補給艦に乗せて、帰国させると発表する。
予想通り【サルデニア王国】の政権は関与を認めなかったが、サルデニア国内では世論が対立することになった。
【ガリアルム王国】の策略とする意見、
この時期に政権は何故下手な策略をしたのだと、政権を批判する声、
捕虜達に自分達の命欲しさで国を売ったと非難する声、
その捕虜になった者達の家族達の喜びの声、
更に世論は“戦争をする”“しない”で意見が分かれるが、サルデニア政権の答えは戦争と決まっていた。
サルデニア政権はサルデニア王の名のもとに、ドナウリアへ使者を送り援軍を要請したが、ドナウリアは予想以上のロマリアの抵抗に遭い、侵攻計画が思いの他長引いている。その為に、物資と戦力共に余裕がさほどなく援軍を派遣する事を渋ってきた。
ロマリアの抵抗が増したのは、ガリアルムが近い内にサルデニアに侵攻して、ドナウリアが同盟国を助ける為に、軍を割かざるを得ないと読んだからである。
それまで粘ればドナウリアの戦力が減り、更に粘ればガリアルムがドナウリアに侵攻するかも知れない。そうなれば、ドナウリアは我が国侵攻どころではなくなると、希望を見出したからであった。
ドナウリア皇帝フリッツ・フォン・ドナウリア(フリッツ2世)は、今は戦力に余裕がないのでガリアルムが宣戦布告をしてきたら、援軍を出すと返事をして使者を返した。
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