反乱軍鎮圧 03




 討伐艦隊の指揮官リュシエンヌ(リュス)・レステンクールが、補足した反乱軍残存艦隊に攻撃命令を出そうとした時、数で圧倒的に劣勢な敵艦隊は戦うこと無く投降を申し入れてきた。


 投降を受けたリュスは、艦隊参謀のマルグリットに独り言のように話しかける。


「どうせ、大逆罪で全員死刑だから、ここで殲滅してしまった方が、余計な手間を掛けずに済むのだけど…、そういう訳にもいかないわね…」


「交戦前に投降を申し出てきた者を攻撃するのは、後日非難の的になるかと思われます。それに受け入れるのは、人道上やむを得ないと思われます」


 こうして、リュスは残存艦隊の投降を受け入れ、艦を武装解除させた後に主星パリスまで、捕虜たちを艦と共に護送することなった。


 フランがそのリュスから超光速通信で報告を受けたのは、オワース星系の惑星ボーウェを越え首都星パリスまで約五日の行程となる位置でのことである。


「反乱軍の残存艦隊の拿捕と、主星パリスの反乱軍を鎮圧しました。地上反乱軍の参加者の大半は射殺、投降者は拘束しました。残念ながら首謀者であるスミスソン公爵は自害しました」


 モニター越しにリュスから報告を受けたフランは、このように返答をおこなう。


「少将、反乱軍鎮圧ご苦労。スミスソン公爵の件は残念ではあるが、どうせ大逆罪で死刑にするつもりであったから問題はない。引き続き主星の治安維持と諜報部に協力して残党狩りを遂行してくれ」


「御意」


 リュスは敬礼して、命令に応じるとフランの答礼を受けてから通信を終える。

 フランは指揮官席に座り頬杖をしながら、艦橋の壁に映し出された星々を見ながら、安堵のため息をついてからこう呟く。


「ひとまずは終わったな…」


 だが、これは始まりに過ぎないことを彼女自身がわかっていた。

 フランの言葉を聞いたルイは、戦いの終わりを実感し張り詰めいていた緊張の糸が切れてしまう。


 そして、彼女につられて外の星を見ながらこう考える。


(戦いもこれで終わりだ。主星パリスについて、後処理が済めば士官学校に戻ってまた平穏な日々を送ることが出来る…)


 だが、彼が王立士官学校に帰ることは二度となかった。

 五日後フランの艦隊が、主星パリスに到着し宇宙港から軌道エレベーターを降りて地上に着くとリュスの出迎えを受ける。


 フランは、そのまま用意されていた王族専用の公用車に乗り込むと、その後に少将であるリュス、そして大尉であるクレールが乗り込む。


 ルイは続けて乗り込もうとするが、車内が女性だけだということに気付き、居心地の悪さを感じ乗り込むのを躊躇する。


(よくよく考えたら、僕がこの車に乗る必要はないのではないか?)


 彼がそう思っていると、後ろに停められた公用車にロイクがワトーと共に乗り込む姿が見えた。


 彼が親指を立てて”乗るか? リア充!”というジェスチャーをしてきたので、ルイはあの車に載せて貰おうと、そちらへ向かおうとする。


 すると車の中から、黒い軍服を身に着けた人形のような白い肌の細い手が伸びてきて彼の軍服の裾を掴む。


 彼は唾を呑み、恐る恐るその手の持ち主を見ると、もちろんそこには手と同じ白い肌と銀髪の少女が、彼の軍服を掴むために片手をついて身を乗り出しており、彼女はその体勢で彼にこう言ってきた。


「上官ばかりだからといって、遠慮することはない。さあ、私の隣に座るが良い。オマエは私の副官なのだからな!」


 だが淡い青色の例のヤンデレ目は、彼にこのように訴えかけていた。

(どこへ行く気だ? オマエの席は私の隣だろう?)


「あっ、はい…。失礼します…」

 ルイが観念して、車に乗り込もうとした時に、ふとロイクの方を見ると、彼はそんなルイを敬礼して見送っていた。


 その後、ロイクは車に乗り込みこう思っていた。

(わかるぞ、ルイ君。俺達女性慣れしていない者にとって、その空間は居心地悪いよな)

 彼だけはルイの理解者であった。


 ルイが車内で男性一人という状況で、肩身が狭そうにフランの隣で座っていると、リュスがフランに状況の報告を始める。


「殿下が到着する五日の間に、諜報部、憲兵隊と共に反乱軍残党及び協力者を悉く逮捕拘禁しました。捕らえた者達の詳しい情報は、これから向かう憲兵隊本部でお聞きください。あと、国境にいるバスティーヌ大将から報告が入っており、サルデニア艦隊が国境から引き返したそうで、自分達もこれから帰投するそうです」


 リュスの報告を聞いたフランは、クレールを見ながらこう答える。

「どうやら、奴らにも反乱失敗の報告が届いたようだな」

「おそらく…」

 クレールはいつもの冷静な表情でそのように端的に返事をした。


 リュスは二人のやり取りを聞いて、このような発言をする。

「タイミングが良すぎるとは思っていましたが、やはり反乱軍の後ろには【サルデニア王国】がいましたか…」

 彼女の発言にフランは黙って頷いた。


(関わっているのは、果たして【サルデニア王国】だけだろうか?)

 ルイはそう考え、その言葉が喉まで出かかったがのみ込んだ。

 これはあくまで彼の憶測であり、ここで不用意に発言するのは良くないと思ったからであった。


【ガリアルム王国】では、国家憲兵隊は軍隊内の犯罪以外に、国内の治安維持や司法警察、警備などにあたっている。


 そのため憲兵隊が腐敗すると国家が腐敗する事になり、現に権力者に取り込まれ、もみ消しなどが日常茶飯事になっていた。


 フランは二年前に父親の権限と諜報部を使って、腐敗した国家憲兵隊の人事を一掃して、新たな体制に作り変えさせた。

 だが、あまりにも一新しすぎたために、憲兵隊としての機能を取り戻したのは半年前であった。


 一度出来上がってしまったモノを壊して、一からやり直すには時間がかかり、だから誰もやろうとしない。

 だが、やらなければこの国は衰弱したところを、列強に喰われてしまう。

 フランは、その思いで改革に邁進することになる。



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