ソンム星系の戦い 06
ロイクの別動艦隊に天頂方向からの砲撃を受けて、大損害を受けた反乱軍艦隊はようやくエネルギーシールドを張って直上攻撃に対処しだすが、既に300隻から220隻にまで数を減らしていた。
反乱軍艦隊が突然のロイク艦隊の攻撃で、不意を突かれ混乱している間に両翼の艦隊は敵艦隊の両側面への移動を完了させて、側面からの攻撃を開始する。
フランがヨハンセンの艦隊に、天底方向へ移動して攻撃を行おうよう命じようとすると、彼の艦隊は既に最大船速で本隊の下を通り抜けて、敵艦隊の下部に向かって移動していた。
「まったく、ロイクといいあの者といい独断専行をしおって…。まあ、判断は間違っていないが…」
フランはその様に二人が攻撃命令を待たずに、勝手に行動したことに怒りを表すが、すぐにその判断力を評価する。
ロイク艦隊に遅れる事、数分後ヨハンセン艦隊は反乱軍艦隊の天底に到着した。
「撃て!」
ヨハンセンの攻撃命令により、彼の艦隊100隻は下方向からの砲撃を開始する。
(天頂方向の艦隊と同じくらいに艦隊を動かしたのに、かなり遅れてしまったな…。あの艦隊の司令官のほうが、機動力を活かした艦隊の戦術運動に長けているのだな)
彼はロイクの才能を認めながら、自分はこれ以上艦の数が増えれば、恐らく艦隊の戦術運動は上手くおこなえないであろうと考え、1000隻以上の司令官に任命された時は、巧みな戦術運動の出来る幕僚を迎えなくてはと思うのであった。
だが、彼はすぐさま自分の目的を思い出し、今の考えを否定する。
(いや、いや、私の目的は艦隊の指揮官ではなくて、広報部でペンギンのマスコット、<ぺんモン>シリーズを作って、ぺんモン王国を作ることではないか…)
彼は頭を横に振って雑念を打ち消すと、戦闘に集中する事にする。
こうして、反乱軍艦隊が混乱を収めた時には、後方を除いた残りの方向全てから包囲されまさしく十字砲火を受けることに事になり、絶望的な状況に追い込まれていた。
エネルギー残量の乏しい反乱軍艦隊は、後方以外エネルギーシールドを張って攻撃を防ぐが、フランの艦隊約400隻による容赦のない十字砲火が浴びせられる。
紡錘陣形の外側にいる艦は少なくとも二方向から砲撃を受けるために、エネルギーシールドに高負荷がかかり、エネルギー消費が更に増しシールドが使用できなくなり、虚空に爆散することなってしまう。
もちろん、敵艦隊も大人しく撃沈を待つ艦だけではなく、起死回生で突撃する艦もいるが、集中砲火を受けて、目的を達せぬ前にあっけなく撃沈される。
包囲の後方が空いているのは、完全に包囲すると退路を断たれた敵は死兵となって、死ぬ気になって攻勢を掛けてくる事になるからだ。そのためそれを防ぐ為に、わざと退路を空けているのである。
そこから脱出しようとする艦は、後方の脱出口を出て暫く航行したところを、ロイクとヨハンセンの命令を受けた駆逐艦の追撃を受けて撃沈されていった。
フランの艦隊は玉葱の皮を剥くように、外側の艦を次々と撃沈して確実に敵の数を減らしていく。そして、100隻以下まで撃ち減らしてからは、加速度的に敵艦の撃破速度が上がり包囲開始から1時間も経たずに、反乱軍艦隊はエティエヴァンの乗艦を含めて20隻にまでその数を減らしていた。
すると、フランはオペレーターより、敵艦からの通信がきたことを報告される。
「王女殿下、敵艦から降伏するとの通信が来ております。いかがなさいますか?」
「エティエヴァンからか?」
「いえ、敵の各艦からです」
「では、可愛そうだが受け入れる訳にはいかない。戦闘中に単艦の降伏処理など、危険な事は出来ないからな…」
フランは冷徹にそう言って、降伏の申し入れを拒否する旨を伝えた。
彼女はそう言ったが、現在の戦力差ならやれない事はない。
だが、降伏した艦に武装解除させようとした艦もしくは攻撃参加中の艦が攻撃されれば、それなりの被害は出る。
反乱した者を助けるために、味方を危険に晒すわけにはいかないというフランの冷徹な判断であった。
それにここで甘い判断を下せば、この後も反乱を起こす者達が出てくる可能性もあるからだ。
その頃、味方が撃ち減らされ、逆転が不可能と悟り自暴自棄となったエティエヴァンは、突撃による華々しい玉砕を主張するが、それに対して副官は降伏を再三に渡り進言していた。
「公爵閣下、降伏致しましょう」
「この期に及んで、降伏などできるか! 小娘に突撃して華々しい最後を遂げるのが、名門貴族たる儂の最後の意地である!」
エティエヴァンは、副官の降伏の進言を断固として受け入れず、最後まで名門貴族の誇りとその放漫さを捨てなかった。
「そのような、無益な事は――」
副官が説得を続けようとした時、オペレーターから報告が入る。
「エネルギーシールド消失! 直撃来ます!」
「何!?」
エティエヴァンがその報告に反応した瞬間、あらゆる方向から放たれた複数の粒子砲が、彼の乗艦に突き刺さり複数の風穴を開けて通り抜けると、そこから爆発とそれに伴う炎が吹き上がる。
(我々の敗北は…、国王夫妻を逃した時から…。いや、この反乱を起こした時から決まっていたのかもしれぬ……)
爆散する艦の中で、副官は最後にそう推考して、主人と共に宇宙の塵となった。
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