ソンム星系の戦い 05




 突撃する機会を掴めずに、徐々に数を減らし自艦隊の艦艇数が300隻まで、撃ち減らされたエティエヴァンは副官に事態の説明を求める。


「どういうことだ! 突撃も出来ずに、数の有利も活かせぬままに互角になってしまったではないか!」


「我が艦隊は補給艦がいないために、敵艦隊と同じローテーションで補給をしても、満足な補給ができません。そのために、粒子砲もエネルギーシールドも敵と同じ様に使用することはできず…」


 副官に不愉快な現状を聞かされたエティエヴァンは、状況を打破するために――


「こうなれば、今から小娘の艦の位置まで全艦で突撃を敢行し、小娘を捕縛せよ!」


「突撃するにも、それなりのエネルギーが必要です。今のエネルギー残量で成功するかどうかは…」


「では、他に何かこの劣勢を覆す手があるのか?!」


 傲慢な主人への返答に、副官は最善の手がないかを考える。


 撤退して、後方からこちらに遅れてやってきている戦艦や補給艦と合流するという選択肢もあった。だが、王女を捉えるために下手に距離を詰めてしまった為に、エネルギーに余力のない今の状態では無事に逃げ切れるのは難しいであろう。


 仮に逃げ切れたしとしても、甚大な被害を受けるのは明白である。


(もはやこの距離から逃げ切るのも難しく、補給のない我が艦隊は、このまま撃ち減らされて全滅するだけか…。公爵の言う通り突撃に命運を懸けるしかないか…)


「公爵のおっしゃるとおりです。直ちに艦隊に突撃の指示を出します!」


 副官はこう答えたが、突撃という選択肢にも問題があった。


 1つ目はエネルギーの乏しい状態で、突撃する為の推進、攻撃、防御のためのシールドと消費して、果たして目的達成までエネルギーが持つかどうか。

 この問題は、艦隊を密集させて紡錘陣形を取れば、陣形の外側の艦が敵の攻撃で撃沈されるが、その間に残りの内側の艦が目標まで到達できる可能性がある。


 2つ目は味方の多くが金で雇われた者達や、今回の反乱を支援している【サルデニア王国】から派遣された者達であり、彼らは退路のない自分達と違って、命をかけてまで戦う意志も理由もないということである。


 そのために、このような無謀な突撃の参加に渋るであろう事は容易に予想でき、1つ目の問題を解決するのは難しく、副官の読み通りに彼らは突撃命令を受けると参加を渋り、代わりに退却と意見が出された。


 副官は、この距離からの撤退は絶望的である事と降伏しても、反乱参加者は大逆罪として死刑になる事を伝え、生き残るには突撃に懸けるしかない事を訴える。


 反乱軍艦隊の者達も、この状況では突撃して<死中に活を求める>しかない事は、薄々気付いていた為に最後は突撃参加を了承して、紡錘陣形を組み始めた。


 副官が突撃の説得していた頃、ルイは戦場の恐怖に慣れてきており、周囲を見る余裕ができて艦橋を見渡すと、女性士官ばかりなのに気付き少し居心地の悪さを感じる。


 が艦橋内を見渡していると、横から今となっては慣れ親しんだ恐ろしい視線を感じて、その視線の正体を瞳だけ動かして一応確認してみることにした。


 もちろんその視線の主はフランで、瞳孔の開いた瞳で他の女を見ている彼を威嚇しており、彼はすぐさま瞳を彼女の方から正面のモニターに戻すと、怖いもの見たさで確認しようとした事を後悔する。


 戦場の恐怖には慣れてきたのに、このヤンデレ目にはまだまだ慣れそうにない。

 すると、モニターには敵艦隊が紡錘陣形に艦隊を動かし始めていた。


「フラン様! 敵は紡錘陣形に艦隊を再編させようとしています。その目的は、この総旗艦に対しての突撃だと思われます!」


 ルイがフランに敵の動きと、目的を進言するとフランも解っているようで、すぐさま各艦に指示を出す。


「わかっている。左翼と右翼の艦隊に伝令。敵艦隊の動きに合わせて、まずは最左翼と最右翼の30隻だけ前進させ左右から挟み込め。」


 フランの本隊艦隊は、彼女が所属する中央に戦艦100隻、左翼と右翼に戦艦20隻ずつ巡洋艦30隻駆逐艦50で展開しており、最左翼と最右翼50隻は機動力のある巡洋艦と駆逐艦で構成されている。


 フランは、戦場の中央に集まり紡錘陣形を組みつつある反乱軍艦隊の空いた左右の空間に、その機動力のある艦を進出させ両側面から包囲するように指示を出す。


 反乱軍も紡錘陣形をとれば、両側面に敵が進出して包囲体制を取られるのは解っている。

 そのため包囲される前に急いで紡錘陣形を整えようとする。


 フランは包囲の指示の後にこう付け加えた。


「ただし、包囲をさほど急ぐ必要はない。敵の注意を引きつけるだけでいい」


「公爵閣下、敵の艦が左右から迫っています。紡錘陣形はまだ完全ではありませんが、包囲される前に、突撃を開始致しましょう」


 包囲を恐れた副官が、エティエヴァンに突撃の号令を促すと、彼はその進言を受けて突撃命令を下そうとする。だが、その時オペレーターが焦りながら報告をおこなう。


「大変です! 天頂方向から敵艦隊接近! 距離は約2万2千キロメートル! 数はおよそ100!」


「何故、その距離まで気づかなかった!!」


「妨害電波で、レーダーがその距離まで機能しませんでした…。敵との距離2万1キロメートル! 攻撃きます!!」


 天頂からやってきたのは、ロイク・アングレーム代将率いる別働艦隊であり、構成は高速戦艦40、巡洋艦30、駆逐艦30の高速艦隊で共に新型艦である。


 ロイクは、偵察艦を使い敵が紡錘陣形を組むために密集を始めると、その機動力を生かして、反乱軍のレーダー範囲外から一気に迫り、射程距離に入ると前進を続けながら、激しい砲撃を天頂方向から浴びせかけた。


 エネルギー節約のために、全面と側面にしかエネルギーシールドを張っていなかった反乱軍艦隊は、突然の天頂方向からの砲撃に対応できない。さらに密集していた為に碌な回避行動も取れずに、次々と船体を粒子砲で上から下に溶解、もしくは切断され大爆発をおこして撃沈していく。


「反応が遅いな…。どうせ、レーダー手に<何故気づかなかった!?>などと、無駄な事を言ってシールドの指示を遅らせているのであろうな…。優先順位もわからぬ無能め…」


 ロイクは指揮官席で足を組み肘掛けに左肘をついて、頬杖をしながらそう呟いた。


 などと、部下の手前カッコをつけてはいるが、初陣である彼の心臓の鼓動は早く、足を組んでいるのも震えを誤魔化すためで、もちろんサングラスに隠された目は、泳ぎまくっている。



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